けん責処分の始末書を提出しない従業員への対処法は?

従業員が仕事でミスをしたので、始末書を提出させるためにけん責処分としました。
ところが、その従業員がけん責処分の始末書を提出しません。どのように対処したらよいでしょうか?

けん責処分とは?

けん責処分とは、労働者に始末書を提出させて将来を戒める処分をいいますが、その処分に不服がある場合、労働者が使用者の指示に従わず、始末書の提出を拒むことがあります。

ところで、始末書は、事実関係を記載するに留まる顛末書と異なり、自身の行為について謝罪の意思を表明させ、それにより本人に反省を促すものです。

そのため、使用者が、謝罪の意思を表明する始末書を提出することを強制したり、それにも関わらず始末書を提出しない場合にさらに懲戒処分をすることが、憲法で保障される「思想・良心の自由」(憲法19条)を侵害するのではないかということが問題となります。

この問題については、再度の懲戒処分を認めた裁判例(下記裁判例①)と、認めなかった裁判例(下記裁判例②)とがありますが、このように裁判例でも判断が分かれうることや、始末書を提出させること自体にこだわっても時間と労力をいたずらに費やすだけですから、始末書を提出しないことを勤務態度として人事考課のなかで評価して対応する方がよいと考えます。

なお、会社が、4回にわたり、けん責処分としたにもかかわらず、勤務態度に変化がなかった従業員について、就業規則の「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するとして、当該従業員を解雇した事例で、裁判所は、認定した当該従業員の行為に照らせば解雇権の乱用にはあたらないと判断しています(下記裁判例③)。


けん責処分に関する判例①

「エスエス製薬事件」(東京地裁判決 昭和42年11月15日 民集18巻6号1136頁)

概要

従業員Xが、会社に無許可で外出し、5時間職場を離脱したり、会社との協約で組合活動を禁止されている時間内に会社構内でビラを配った行為について会社が始末書の提出を求めたところ、これを拒否したため、Y社は就業規則に従って昇給停止、14日間の出勤停止の処分を下した。

Xは、これら処分が無効なものであり、Y社の従業員の地位を有していることの確認を求めて出訴した。

裁判所は、会社の就業規則には、けん責処分・昇給停止処分・出勤停止処分に付する場合は、あらかじめ始末書の提出を求め得ると規定されているため、従業員は対象となった行為について、会社上司から始末書の提出を命ぜられた以上、これを提出すべき義務があるものというべきであり、これを拒否したことは就業規則の「職務上上長の指揮命令に従わなかったこと」に該当するため、本件の昇給停止、出勤停止処分は、これに該当する事由を欠くものではないとして、有効であると判断した。


けん責処分に関する判例②

「福知山信用金庫事件」(大阪高裁判決 昭和53年10月27日 労判314号65頁)

概要

使用者が、有罪判決を受けた従業員を諭旨解雇としたことについて、就業時間中に抗議した従業員を謹慎処分に付したところ、当該従業員がこれに従わなかった。
そのため、使用者は、「謹慎処分を解除された場合には、過去の行為について反省し、今後同様の行為を行わないことを誓約するとともに、この誓約に違反した場合にはどのような処分を受けても異議を述べない」という内容の誓約書の提出を求めたが、当該従業員はこれにも従わなかったため、使用者は、就業規則に基づき当該従業員を諭旨解雇とした。

これに対し、従業員らは職員としての地位の確認を求めて出訴した。

裁判所は、使用者が求めた誓約書中の、包括的に異議申立権を放棄すると受け取れる文言が含まれており、妥当性を欠くだけでなく、そもそもこのような内容の誓約書の提出を強制することは、個人の良心の自由にかかわる問題を含んでおり、労働者と使用者が対等な立場において労務の提供と賃金の支払を約束する近代的な労働契約のもとでは、誓約書を提出しないこと自体を、風紀を乱す行為とみたり、特に悪い情状とみることは相当でないと判断して、解雇が無効であると判断した。


けん責処分に関する判例③

「カジマ・リノベイト事件」(東京高裁判決 平成14年9月30日 労判849号129頁)


概要

上司に対する侮辱的発言にはじまり、数々の会社(上司)の指示に従おうとせず、会社の秩序を乱していた従業員Xについて、日頃の上司の注意を聞き入れようとしなかったため、会社Yが4回にわたりけん責処分としたが、結局最後まで始末書を提出せず、3回目のけん責処分の際は、会社からの通知書をその場でシュレッダーにかけるという行為におよび、結局勤務態度にも変化が見られなかったため、会社が、就業規則で解雇事由と定めていた「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するとして、当該従業員を解雇した。

Xは、解雇には合理的な理由がなく無効であるなどと主張して、労働契約上の地位確認及び、未払賃金及び解雇前の未払時間外手当・付加金の支払、並びに慰謝料の支払を請求した。

裁判所は、当該従業員の行為について、一つ一つを取り上げると比較的些細なものが多いように思われるが、企業全体としての統一性を乱すもので、過誤にも通じるおそれがあるような軽視することができないものであると認定した上で、4回にわたりけん責処分を受けたにもかかわらず、被控訴人の態度に変化がなかったという解雇に至る経緯について、就業規則が解雇事由として定めていた「勤務成績又は能率が著しく不良で、就業に適しないと認めるとき」に該当するものと認められ、会社による解雇が、権利の濫用に当たるとみることもできないと判断した。


 

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