契約書のひな形、内容証明郵便書式、労務書式、
会社法議事録・通知書のテンプレートが無料

求人票を出したあと会社側の都合で労働条件を変更できる?

ハローワークに求人票を出し、応募者が来たのですが、会社側の都合で労働条件を変更したいと考えています。可能でしょうか?

解説

まず、労働契約も契約の一つであるところ、そもそも契約とは契約を締結しましょうという申込みがあり、それに対してそうしましょうという承諾があって成立するものです。
また申込みとは、承諾があれば契約を成立させる旨の意思表示をいいます。

ここで会社としては、当然、応募してきた者がどのような人物であろうとも労働契約を締結するというわけではないので、求人票の提出は、契約を締結しましょうという申込みにはあたりません。

法律上は、労働契約の申込みをさせようとするための申込みの誘引にとどまると考えられます。したがって、応募の時点では労働契約はまだ成立していないといえます。

また、労働条件とは労働契約の内容なので、労働条件が確定するのは労働契約成立時であるといえます。

したがって、求人票記載の労働条件が当然に労働契約においても労働条件になるわけではありません。

よって、労働契約成立前に従前の労働条件を変更することは可能です。
もっとも応募者としては、求人票に記載された労働条件で勤務できるものと期待してしまうので、その期待を裏切ることが信義則に反するような場合には慰謝料を請求される可能性があります。(判例を参照)

求人票記載の労働条件を変更して労働契約を締結しようとする場合には、労働条件変更の合理的な理由があることを前提に、応募者に労働条件変更の十分な説明をした上で労働契約を締結した方がいいでしょう。

判例①

「八洲測量事件」(東京高裁判決 昭和58年12月19日 判時1102号24頁)

概要

控訴人(一審原告)であるXらは、在学中に被控訴人(一審被告)であるY会社の昭和50年度新入社員募集に応じて行われた採用試験に合格し、Y社に入社した。

Y社が社員募集のためXらの在籍校に提出した求人票には、学歴別の賃金(初任給)の「見込額」が記載されていたが、入社後に現実に支給された賃金はこれを5千円前後下回るものであった。そこでXらは、Y社に対し求人票に記載された見込額と実際に支給された賃金との差額の支払いを求め、訴えを提起した。

東京高裁は、まずXらがY社からの求人募集(申込みの誘引)に応募したことが労働契約の申込みにあたり、これに対するY社からの採用通知が申込みに対する承諾であり、Y社が採用通知を発したときにY社とXらの間にいわゆる採用内定として労働契約が成立したと認定した。

その上で、求人票に記載された基本給額は「見込額」であり、最低額の支給を保障したわけではなく、将来入社までに確定されることが予定された目標としての額であると解し、本件採用内定時に確定したと解することはできない、と判示した。

もっとも、賃金は最も重要な労働条件であり、求人者から低額の確定額を提示されても新入社員としては、これを受け入れざるをえないのであるから、求人者はみだりに求人記載の見込額を下回る額で賃金を確定すべきでないことは信義則からみて明らかであるといわなければならない、と指摘し本件においては、当時の石油ショックによる経済上の変動、前年度の初任給は上回っていたこと等の事情を考慮し、信義則に反しないと認定した。

判例②

「日新火災海上保険事件」(東京高裁判決 平成12年4月19日 労判787号35頁)

概要

被控訴人(一審被告)であるY社は、就職情報誌に「ハンディなし。例えば89年卒の方なら89年に当社に入社した社員の現時点での給与と同等の額をお約束いたします」などと求人広告を掲載し、中途採用者を募集した。控訴人(一審原告)であるXは、この記事を見てY社求人に応募し、面接を経て採用内定通知を受けた。

しかしY社は、Xに対し上記情報誌記載基準を下回る給与を支給した。

そこでXはY社に対し、給与の差額分や慰謝料の支払いを求めて訴えを提起した。

東京高裁は、まず求人広告をもって個別的な契約の申込みの意思表示とみることはできず、面接及び会社説明会においてもXの給与の具体的な額又は格付を確定するに足りる明確な意思表示があったものと認めることはできないとし、本件労働契約上、Y社がXに対し新卒同年次定期採用者の平均格付による給与を支給する旨の合意は成立していないと認定した。

もっともY社は、計画的中途採用をするにあたり内部的には、中途採用者の初任給を新卒同年次定期採用者の現実の格付のうち下限の格付に定めることを決定しているにもかかわらず、人材の獲得のためにそれを応募者に対して明示せず求人広告、面接、社内説明会における説明において新卒同年次定期採用者の平均給与と同等の給与待遇を受けることができると信じさせかねない説明をしたとして、労働条件明示義務違反(労働基準法15条1項)と信義則違反を理由に、慰謝料100万円の支払をY社に命じた。


会社と応募者との間に労働契約が成立するのは、会社が採用を決定し、応募者と契約を締結したときであり、労働条件も労働契約成立時に確定するといえますので、契約成立前であれば求人票に記載した労働条件を変更することは可能です。

経営に役立つ無料セミナー・無料資料請求
PREVNEXT