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定年を迎えた従業員に引き続き仕事をしてもらうにはどうすればよいか?

定年(当社では65歳)を迎えた従業員に引き続き仕事をしてもらいたいのですが、再雇用や継続雇用した場合、労働基準法の適用はあるのでしょうか。
業務委託の場合はどうでしょうか。

解説

定年後も引き続き仕事をしてもらう場合、継続雇用や再雇用ではなく、業務委託という形がとられることがあります。
具体的には、定年を迎えた従業員に個人事業主になってもらい、会社の業務を委託するということが考えられます。

この場合、対象者は「個人事業者」であり、労働基準法9条にいう「労働者」には該当しないため、労働基準法の適用はありません。
なぜなら、労働基準法の目的は、使用者に従属する労働者の保護なので、使用者の指揮監督に従わずに、仕事を自由にすることのできる「個人事業主」は、労働基準法の保護の対象とする者ではないからです。

労働基準法の適用のない業務委託制度を導入すると、委託者としては柔軟な制度設計が可能になり、契約内容についても当事者の合意によって原則として自由に定めることが可能となります。
他方で、受託者としても、そもそも仕事を受けるかどうかの選択自体が可能ですし、勤務地や勤務時間を従業員のように拘束されることもありません。

もっとも、契約の名称だけ「業務委託」としていても、実際の業務遂行において使用者の指揮命令下にある場合は、「労働者」に該当するとして労働基準法が適用されます(「労働者」の判断については後述の判例を参照)。

具体的な使用者の指揮監督の有無の判断については、

①時間的、場所的な拘束の程度
②業務遂行上の指揮命令の有無
③専属関係の有無
④第三者による代替性の有無
⑤具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対し諾否の自由があるか
⑥生産器具・道具等の所有
⑦報酬の性質・算定方法
⑧公租公課の負担関係

といった事情を考慮して判断します。

したがって、業務委託とする場合には、その実態によっては「労働者」に該当し、労働基準法の適用の可能性があるということに注意する必要があります。

なお、高年齢者雇用安定法との絡みがあるため、事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定雇用を確保すべく、65歳未満で退職した労働者について、定年の引き上げ、継続雇用制度、定年の廃止のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければなりません。

判例

「K医科大学研修医事件(未払賃金請求事件)」
(最高裁判決 平成17年6月3日 民集59巻5号938頁)

概要

平成10年6月1日、K医科大学での6年間の大学生活を終えたM氏は、同大学附属病院で研修医として働き始めた。
研修医の1日は激務で、同病院の休診日等を除き、原則的に午前7:30~午後10:00まで臨床研修に従事していた。
また、指導医が当直をする場合には、翌朝まで病院内で待機し、副直をしていた。

しばらくすると、M氏は胸の痛みを訴えるようになった。回りの同僚が見ても疲労困憊の様子であったが、勤務開始から2ヵ月半後の8月16日、急性心筋梗塞症により死亡した。

M氏の両親は、K医科大学に対して、M氏が労働基準法及び最低賃金法の「労働者」に該当することを前提に、M氏に最低賃金法の定める最低賃金額以下の賃金しか支払われていなかったとして、最低賃金法の定める最低賃金額とM氏の月額報酬金6万円及び副直手当との差額分について未払賃金請求訴訟を起こした。なお、本件とは別に、両親はK医科大学に対して、M氏の死亡は過労が原因であったとして損害賠償請求訴訟も起こした。

本件裁判の主な争点は、研修医は「労働者」に該当するか否かであるが、K医科大学側は、研修医は教育過程にあり、病院や指導医の指揮命令により就業しているのではないから「労働者」に該当しないと主張。

一審、二審ともに、研修医が従事している労務の実態に基づいて研修医の労働者性を認め、K医科大学に未払賃金の支払を命じ、これに対してK医科大学が上告した。

最高裁判決では、病院において研修プログラムに従い臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事する研修医は、病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り、労働基準法9条所定の労働者に当たるとした上で、M氏はK医科大学の定めた時間及び場所において、指導医の指示に従って医療行為に従事していたこと、K医科大学側がM氏に金員を支払う際には給与等に当たるものとして源泉徴収を行っていたこと等から、M氏はK医科大学の指揮監督の下で労務の提供をしたものとして、労働基準法及び最低賃金法の「労働者」に該当すると判断して上告を棄却した。

M氏に関する権利の救済に留まらず、研修医を労働者と認める初の判断を示した。

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