【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/12/6

会社法上、吸収型再編(吸収合併、吸収分割及び株式交換)については、何ら対価を交付しない無対価組織再編成が認められていると解されています(会社法749①二など参照)。

これに対応し、法人税法においても、対価の交付を省略したと認められる場合には、無対価組織再編成を行ったとしても、税制適格要件に抵触しないと解されています。

本記事では、無対価組織再編成を行った場合における税制適格要件の判定方法について解説を行います。

無対価合併

まず、無対価合併については、金銭等不交付要件に抵触するかどうかが議論になりました。

この点については、条文上、被合併法人の株主等に合併法人株式(合併法人の株式又は出資をいう。)又は合併親法人株式(合併親法人の株式又は出資をいう。)のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないことが要件となっており、合併法人株式又は合併親法人株式を交付することは求められていません(法法2十二の八柱書)。

そのため、無対価合併を行ったとしても、金銭等不交付要件に抵触しないと考えられます。

ただし、平成22年度税制改正及び平成30年度税制改正により無対価合併を行った場合における税制適格要件の判定方法が明確になり、通常の税制適格要件に加え、以下に該当する事案に限り、税制適格要件を満たすこととされました(法令4の3②~④)。

これらは、いずれも対価の交付を省略したと認められる場合を想定したものと考えられます。

イ.完全支配関係内の適格合併
(イ)当事者間の完全支配関係がある場合
合併法人が被合併法人の発行済株式又は出資の全部を直接に保有している場合
(ロ)同一の者による完全支配関係がある場合
(a)合併法人が被合併法人の発行済株式又は出資の全部を直接に保有している場合
(b)被合併法人と合併法人の株主構成が同一の場合
ロ.支配関係内の適格合併
(イ)当事者間の支配関係がある場合
被合併法人と合併法人の株主構成が同一の場合
(ロ)同一の者による支配関係がある場合
(a)合併法人が被合併法人の発行済株式又は出資の全部を直接に保有している場合
(b)被合併法人と合併法人の株主構成が同一の場合
ハ.共同事業を行うための適格合併
被合併法人と合併法人の株主構成が同一の場合

そのため、対価の交付を省略したと認められない場合には、非適格合併として取り扱われることになります。

無対価分割

無対価分割については、そもそも分割型分割に該当するのか、分社型分割に該当するのかが問題になります。

この点については、条文上、分割の直前に分割承継法人が分割法人の発行済株式若しくは出資の全部を直接に保有している場合又は分割法人が分割承継法人株式を直接に保有していない場合には、分割型分割として取り扱われ(法法2十二の九ロ)、分割の直前に分割法人が分割承継法人株式を直接に保有している場合(分割承継法人が分割法人の発行済株式又は出資の全部を直接に保有している場合を除きます。)には、分社型分割として取り扱われることが明記されています(法法2十二の十ロ)。

そして、金銭等不交付要件を満たすことができるという点と(法法2十二の十一柱書)、対価の交付を省略したと認められる場合に限り、税制適格要件を満たすことができるという点は(法令4の3⑥~⑧)、合併の取扱いと変わりません。

また、按分型要件が満たせるのかという点が問題になりますが、「当該株式が交付される分割型分割にあつては」と規定されていることから(法法2十二の十一柱書)、そもそも無対価分割については、分割型分割に該当したとしても、按分型要件が課されていないと解されます。

無対価株式交換

無対価株式交換についても、無対価合併と同様の取扱いになっています(法法2十二の十七、法令4の3⑱~⑳)。

ただし、無対価株式交換が非適格株式交換に該当したとしても、株式交換の直前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に完全支配関係がある場合には、非適格株式交換等に伴う時価評価課税が課されないこととされているため(法法62の9①)、非適格株式交換に該当したとしても、不都合がないことも多いと思われます。

間違いやすい事例

実務上、間違いやすい事例は、完全支配関係が成立している場合であると考えられます。

なぜなら、完全支配関係が成立していたとしても、対価の交付を省略したと認められない事例が考えられるからです。

その典型例として、親族等が保有している法人との組織再編成が挙げられます。

例えば、父親が保有するA社を合併法人とし、その長男が保有するB社を被合併法人とする吸収合併を行った場合には、無対価合併を行ってしまうと、合併法人株式を交付した場合とは資本構成が異なることから、非適格合併に該当してしまいます。

もうひとつ間違いやすい事例として、最終株主が一致している場合が挙げられます。

例えば、P社がA社の発行済株式の全部を直接に保有し、かつ、A社がB社の発行済株式の全部を直接に保有している場合に、P社を合併法人とし、B社を被合併法人とする吸収合併を行ったときは、無対価合併を行ってしまうと、対価の交付を省略したと認められないことから、非適格合併に該当してしまいます。

これを回避するためには、A社が保有するB社株式をP社に対して適格現物分配により移転した後に合併するという手法が考えられます。

しかしながら、P社とA社との間の支配関係が生じてから現物分配の日の属する事業年度開始の日まで5年を経過していない場合には、繰越欠損金の使用制限(法法57④)、特定資産譲渡等損失額の損金不算入(法法62の7)がそれぞれ課されてしまうという点に留意が必要になります。

まとめ

実務上、無対価組織再編成を検討することは少なくありませんが、思わぬ理由で非適格組織再編成に該当してしまうことがあります。

そのため、無対価組織再編成を行う場合には、常に条文を確認したうえで、対価の交付を省略したと認められるかどうかにつき、慎重な検討が必要になります。

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