【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/6/19
被買収会社の株主等が内国法人である場合には、株式譲渡前に剰余金の配当を行うことにより、株式譲渡益を受取配当に付け替えることができます。
受取配当等の益金不算入が二重課税の排除を目的にしていることを考えれば、その範囲内で行われる限り、租税回避には該当しません。
これに対し、被買収会社がグループの外から買収されてきた法人の場合には、当該被買収会社における資本金等の額と株主における被買収会社株式の帳簿価額が一致しないことから、例えば、資本金等の額が100百万円、利益積立金額が2,900百万円の被買収会社の株式を3,000百万円で買収した後に、2,900百万円の配当を行ってから100百万円で譲渡した場合には、2,900百万円の受取配当と2,900百万円の株式譲渡損が生じることになります。
このような受取配当と株式譲渡損の両建てについては、短期所有株式等(法法23②)、特定関係子法人(法令119の3⑩~⑯)、グループ法人税制(法法23③、61の2⑰)により規制されていますが、すべての事案に対応したものではありません。
そのため、このような規制を免れたものに対して、同族会社等の行為又は計算の否認(法法132)が適用されるかどうかが問題になります。
この点については、令和2年度税制改正により導入された特定関係子法人の制度が国際課税を強く意識したものとなっており、特定関係子法人並びに過去及び現在における株主等の全てが内国普通法人又は居住者である場合には、特定関係子法人に係る規定は適用されないという点から検討する必要があります。
なぜなら、このような制度になっている理由として、
「配当法人、旧株主及び現株主のすべてが内国法人である場合には、我が国において、配当法人が稼得した利益に対して課税が行われたうえで、旧株主においても配当法人の留保利益の蓄積に対応する部分に対して株式譲渡益課税が行われます。そのため、平成13年度税制改正におけるみなし配当に係る改正の経緯・考え方等を踏まえると、配当法人、旧株主及び現株主のすべてが内国法人等である場合に、旧株主における譲渡益課税を現株主における譲渡損失と相殺することにより我が国における法人段階の重複課税を排除するために、現株主における譲渡損失の計上を認めるという現行の取扱いには、一定の合理性があるものと考えられます(「令和2年度税制改正の解説」482頁)。」
と説明されているからです。
すなわち、被買収会社の株主における受取配当と株式譲渡損の両建てを容認する記述であるとも読める内容になっています。
そのため、同族会社等の行為又は計算の否認を適用することは、他の租税回避と疑われる行為に比べるとハードルが高いように思われます。