【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/7/5

2023 年 5 月 18 日、ソニーグループは、ソニーフィナンシャルグループ株式会社の株式上場を前提にしたパーシャル・スピンオフを検討することを発表しました。

パーシャル・スピンオフは、2023 年度税制改正で導入されたものであり、発行済株式総数の 20%未満を保有し続けるスピンオフのことをいいます。

パーシャル・スピンオフは、2024年3月31日までの時限立法とされていますが、2024年度以降も延長される可能性があるだけでなく、その対象が拡大していく可能性もあります。

本記事では、2023年7月時点におけるパーシャル・スピンオフについて解説を行います。

スピンオフ

法人税法上、スピンオフ(株式分配)とは、現物分配(剰余金の配当又は利益の配当に限る。)のうち、その現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式の全部を保有されていた法人(以下、「完全子法人」といいます。)の当該発行済株式の全部が移転するものをいいます(法法2十二の十五の二)。

なお、条文上は、持分会社を現物分配法人又は完全子法人とするものも想定されていますが、実務上、株式会社を現物分配法人及び完全子法人とするものがほとんどであると思われるため、本記事では株式会社を前提にしています。

そして、法人税法上、適格株式分配(法人税が課税されない株式分配)とは、以下に掲げる要件を満たすものをいいます(法法2十二の十五の三、法令4の3⑯)。

(1)現物分配法人の発行済株式総数のうちに占める当該現物分配法人の各株主の有する当該現物分配法人の株式の数の割合に応じて完全子法人株式が交付されること

(2)株式分配の直前に現物分配法人と他の者との間に当該他の者による支配関係がなく、かつ、当該株式分配後に完全子法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと

(3)株式分配前の完全子法人の特定役員の全てが当該株式分配に伴って退任をするものではないこと

(4)完全子法人の株式分配の直前の従業者のうち、その総数のおおむね 100 分の 80 以上に相当する数の者が当該完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること

(5)完全子法人の株式分配前に行う主要な事業が当該完全子法人において引き続き行われることが見込まれていること

このように、100%子会社の株式の全部を分配するもののみがスピンオフ税制の対象であるといえます。

その結果、従来のスピンオフ税制では、①株式分配後に完全子法人との資本関係が完全になくなってしまい、事業上の不都合が生じる可能性がある、②現物分配法人が何らキャピタルゲインを得ることができない、という問題がありました。

このような問題に対応するために、2023 年度税制改正では、パーシャル・スピンオフという制度が導入されました。

パーシャル・スピンオフ

2023 年度税制改正で導入されたパーシャル・スピンオフは、2024 年 3 月 31 日までの時限立法とされており、産業競争力強化法に基づく認定を受ける必要があります(措法 68の2の2①)。

そして、パーシャル・スピンオフとは、発行済株式総数の 20%未満を現物分配法人が保有し続ける現物分配のことをいいます。

ただし、通常のスピンオフ税制と異なり(イ)完全子法人の株式分配の直前の従業者のうち、その総数のおおむね 100 分の 90 以上に相当する数の者が当該完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること、(ロ)完全子法人が事業の成長発展が見込まれるものとして経済産業大臣が定める要件を満たすものであることといった要件が追加的に課されています(措令 39 の 34 の3①)。

パーシャル・スピンオフは 2024 年 3 月 31 日までの時限立法ですが、経済界からの要請も強いことから、2024 年度以降も何かしらの改正がなされたうえで継続していくと予想されています。

租税特別措置法で規定されている理由

もともとスピンオフ税制が認められたのは、グループ最上位の法人の実質的な支配者はその法人そのものであることから、その法人自身の分割型分割や完全子法人株式の現物分配については、移転資産に対する支配が継続しているからであるといわれています(『平成 29 年度税制改正の解説』317-318 頁)。

そうなると、完全子法人株式の一部を保有し続けるパーシャル・スピンオフを法人税法に導入することは難しく、租税特別措置法により対応されたと考えられます。

そういう意味では、短期的には政策目的で柔軟な税制にしやすいという傾向はあるものの、中長期的には組織再編税制を大幅に見直す必要があります。

そのため、今後、パーシャル・スピンオフを法人税制に取り込むために、組織再編税制の抜本的な見直しがなされる可能性は否定できません。

まとめ

このように、租税特別措置法にパーシャル・スピンオフが導入されたことにより、上場会社のノンコア事業の切り離しが進むことが期待されています。

ただし、上場会社の株主にとっては、上場会社の子会社の株式を取得したとしても、換金性がなければデメリットになってしまいます。

すなわち、スピンオフの対象となる子会社も上場させる必要がありますが、そもそも上場できる子会社はそれほど多くはないと思われます。

さらに、ノンコア事業の切り離しであれば、M&Aという手法もあるため、あえてスピンオフという手法を選択することは、それほど多くはないのかもしれません。

しかしながら、諸外国に事例が存在することや、我が国における経済界からの要請も強いことから、少ないながらも一定のニーズは存在していると予想されます。

そのため、今後の税制改正も踏まえ、パーシャル・スピンオフの制度は理解しておく必要があるといえます。

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