今回のテーマは、「税理士は税法以外の法律をどこまで調査しないと賠償責任を負うか」という内容になります。

税理士は税法の専門家ですから、税法について調べるというのは当然のことです。

相続税業務を行う場合には、民法の相続編を確認しないといけませんし、法人税業務を行うときには会社法を確認したり、他の法律を確認したり、ということが必要になる場合があります。

その場合に、「「どこまで確認しないといけないのか」ということが裁判で争われています。

そこで、いくつかの裁判例をご紹介していきたいと思います。

まず、東京地裁平成26年2月13日判決(事案)です。

相続税申告業務において、税理士は、相続人の1人が長期間アメリカ合衆国で生活していることから、アメリカ合衆国に帰化して日本国籍を喪失しており、制限納税義務者に該当する可能性があると考え、関係者に確認したところ、関係者からは、「確かにアメリカ合衆国の国籍を取得したが、日本国籍を放棄していないため、二重国籍である」と回答がありました。
そこで、税理士は、これを前提に制限納税義務者ではないことを前提として、申告書を作成しました。
(本件は平成26年判決なので、今の相続税法とは違います。制限納税義務者に関する要件などが現在とは違っているため、当時の法律での解釈ということになります。)
ところが、その後に税務調査があり、「日本国籍喪失している」ということになり、税賠に発展したというものです。

国籍法では、国籍を確認しなければなりません。

「国籍法第11条」
1 日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。

この1項によって、本件では国籍を喪失していたということになります。

したがって、税理士は間違えてしまった、ということになり、税理士損害賠償ということで、裁判所も税理士に損害賠償責任を認め、税理士敗訴ということになります。

判決を見てみましょう。

・確かに、税理士は、税務に関する専門家であるから、一般的には租税に関する法令以外の法令について調査すべき義務を負うものではない。
・しかし、相続税申告にあたっては、相続人が日本国籍を有しない制限納税義務者かどうかを確認する必要がある。
・日本国籍を有するかどうかは国籍法が規定している。
・税務の専門家としては、一般人であれば相続人が日本国籍を有しない制限納税義務者であるとの疑いを持つに足りる事実、例えば長期間海外にいるというような事実を認識した場合には、相続人が日本国籍を有するか否かについて確認すべき義務を負う。

ここで注意していただきたいのは、「一般論としては、租税に関する法令以外については調査の義務を負うものではない」と言っておきながら、「税理士業務を行う上で、他の法律が必要になった場合には、その法律について確認するべき」といっていることです。

結論としては、税理士が税理士業務を行う場合に他の法律が関係してくる場合には、その法律を確認する義務を負う、と理解しておいていただくことになるかと思います。

本件の場合、相続税業務ですから、当然、戸籍を収集、確認していると思いますが、じつは日本国籍を喪失したからといって、当然に戸籍から抜けるわけではありません。

戸籍法に、「国籍喪失の届け出」というものがあります。

「戸籍法第103条」
国籍喪失の届出は、届出事件の本人、配偶者又は四親等内の親族が、国籍喪失の事実を知った日から1箇月以内(届出をすべき者がその事実を知った日に国外に在るときは、その日から3箇月以内)に、これをしなければならない。

この国籍喪失届にしたがって、日本国籍から抜けたということが確定する、ということになります。

海外にいる場合には、3カ月以内に大使館等を通じて郵送ですることも可能になっています。

注意点としては、戸籍だけで確認しないということです。

もう一つ、判例を見てみます。

那覇地裁沖縄支部平成23年10月19日判決(事案)です。
税理士が相続税申告業務を受任し、相続財産について調査をし、相続税申告書を作成、提出しました。
税理士が、Aが所有権を取得したものとして相続税申告書を作成、提出しましたが、後の裁判で、じつはBに所有権があるということが確定してしまいました。
そこでAは、相続していない土地についても相続税を納付して損害を被ったとして、税理士に対して損害賠償請求したのですが、税理士が勝訴したというものです。

税理士が間違えたのに、なぜ勝訴となったのでしょうか。

その理由は次のようになります。

Y(税理士)は、本件土地の所有名義人がBであることを確認したことから、訴外乙の相続人らに事情を尋ねたところ、訴外乙が本件土地を所有していた旨の回答を得たばかりか、Aから、自分が本件土地を相続したと主張された。

Yが、税務の観点に立って、相続税を負担することになるにもかかわらず、相続による取得を主張する者の供述に信用性を認めたことには、合理性がある。

そして、税理士Yは、本件協議書の内容や本件土地の利用状況も調査し、上記供述の裏付けを得ている。

税理士は、税務の専門家であって、法律の専門家ではないから、ある財産を遺産に含めて相続税の課税対象として処理する場合に、所有権の移転原因を厳密に調査する義務があるとまではいえず、税務署が納税行為の適正を判断する際に先代名義の不動産の有無を考慮している現状にも照らせば、Yが本件土地に関する調査義務に違反したということはできない。

税理士は業務を行う場合に、他の法律から法律解釈をし、事実認定をしなければいけないことがあるのですが、間違えてしまう場合があります。

しかし、結果として間違えたとしても、必ずしも損害賠償責任を負うとは限らない、ということは覚えておいていただきたいと思います。

そのため必要なことは、税理士として尽くすべき注意義務、例えば資料を確認して、利用状況を確認して、それから関係者にインタビューなどをして、その上で税理士として事実認定をする、というようなことです。

そして、その証拠を取っておかないといけません。

何を確認したか、という証拠化をしておかないと、後で何を調査したのか、という立証ができなくなるので、証拠化をしておくことが大事です。

さらに、重要な注意ポイントとして、関係者間のインタビューをしたのであれば、最後に説明をして、「このように認定した」ということについて関係者全員の納得を得た、という証明押印を得ておくこと。

そして最後に、もしこの認定が間違っていることによって、依頼者に損害が発生したとしても税理士には一切、損害賠償請求しない、というような一筆をとっておくことも検討していただければと思います。

今回は、税理士の税法以外の法律の調査義務についてお話をしました。

普段の業務において、十分注意して、税理士損害賠償を受けないようにしていただきたいと思います。

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