今回は、「非上場会社の株式譲渡では、株券発行会社かどうかを確認する」というテーマについてお話しします。
内容としては、私ども、みらい総合法律事務所で執筆している『税務のわかる弁護士が教える 税賠トラブルを防ぐ事業承継対策』という書籍の中にも書いてある内容となっているので、こちらも合わせて参考にしていただければと思います。
【株式譲渡における注意点】
株式譲渡には、さまざまな場面があると思います。
・事業承継
・相続対策で株式を集約する
・M&Aの前提としての株式集約
・贈与や売買 など
こうした時に、「株式を譲渡したいのですが」と相談を受けて、「それでは、契約書と株主総会議事録が必要ですね、こちらで雛形を作っておきましょう」というような話になることもあるかと思います。
この時の注意点です。
「会社法」
第128条(株券発行会社の株式の譲渡)
1.株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。
2.株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。
第1項を見ると、これは対抗できないではなくて効力を生じない、つまり、「効力発生要件」だということがわかります。
ということは、この売買契約書を締結するだけでなく、株券を交付しないと、そもそも譲渡したことにはならない、ということになります。
【効力発生要件の意味】
・所有権移転の効果が発生していない。
・株主は前株主のまま。
・申告した所得税、贈与税などの税務処理がすべて誤りになる。
となると、税理士に対する損害賠償に発展する可能性があるということです。
私が今までに経験した中で、税理士に対して損害賠償というわけではなく、税理士が行った処理の際に、じつは株券発行会社なのに株券の交付がされていないという事例が何回かありました。
そこで、これは少し怖いと思い、今回、取り上げています。
【非上場株式譲渡の際の注意点】
・まず、株券発行会社の場合には株券を交付しないといけないということになるので、定款を見ていただいて株券発行会社かどうかの確認をします。
・株券発行会社である場合には、株券が発行されているかどうかを確認します。
・発行されていない場合には、譲渡前に株券発行するか、あるいは株券の不発行会社に変えてしまう、つまり定款変更してしまうということになります。
・株券が発行されている場合には、株式譲渡とともに、株券の占有を移転するということです。
それも、契約書に記載して、証拠化しておきます。
【株券不発行会社にする手続き】
では、株券発行が面倒だということで、株券不発行会社にするには、どのような手続きが必要でしょうか。
・株券不発行会社にする旨の定款変更決議をします。
・その旨の公告及び株主への通知をします。
・その旨の登記をします。
【自己株式を取得する時】
個人で株券を買い取る資金がないため、会社で買い取りたいという場合があるかと思います。
この場合にも、株式の譲渡契約書だけでは足りず、注意する点があります。
自己株式を取得する時には、財源規制とその他の規制があります。
「財源規制」
その株主からの取得価額は、自己株式を取得の効力が発生する日における株主への分配可能額(会社法第461条第2項)の範囲内でしか買い取れない(範囲内である必要がある)、という財源規制があります。
そのため、それを確認してからでないと買い取りができない、ということになります。
ご注意いただきたいと思います。
なお、買い取りの対象とならない他の株主に、非上場株式の場合には保有株式を売却するチャンスを与えよう、というための手続きとして、「ミニ公開買付・タグアロング規制」というものがあります。
今回は、詳しく説明はしませんが、非上場会社の株式の譲渡に関与される場合で、かつ、会社が買い取るという場合には、会社法、条文あるいは基本書、解説書などを確認して、この規制に気をつけていただきたいと思います。