今回は、「隠蔽又は仮装が否定され、重加算税賦課決定が取り消された事例」についてご紹介したいと思います。

内容は、私が執筆した書籍『税務のわかる弁護士が教える 重加算税回避ポイントという本から抜き出しています。

【過少申告の場合の重加算税の賦課要件】

過少申告の場合の重加算税の賦課要件は、「国税通則法第68条1項」にあります。

①過少申告加算税の規定に該当する場合
②納税者が
③その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、または仮装し、
④隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した

このような場合に重加算税が賦課されることになります。

では、この「隠蔽又は仮装」とは、どのようなものを指すのでしょうか。

国税庁の「課税処分に当たっての留意点」という内部文書があり、そこには名古屋地裁の判例が引かれています。

「『隠蔽』とは、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、また『仮装』とは、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲することをいう。」
(名古屋地裁昭和55年10月13日判決)

隠蔽又は仮装とは、事実の隠蔽、故意の脱漏、故意に事実を歪曲すること、とされています。

【重加算税賦課決定取消の裁判例】

では、裁判例を見ていきます。

これは、税理士の事案です。

「岡山地裁平成21年10月27日判決(TAINS Z259-11300)」

(事案)
税理士が自分の申告について収入を除外していたとして、重加算税賦課決定がされたもの。
税理士は、平成12年から平成15年当時、税理士業を営んでおり、従業員は、15名ないし20名が在職していたが、そのうちには税理士の資格を有している者は1人もいなかった。税理士は、高齢による体力の低下や持病のため、一度にこなせる仕事の量が減り、従業員も毎日多忙な日々を送っていた。
そして、平成12年ないし平成13年に至り、税理士は、従業員のうちの1人から、税理士が代表を務める会社の預金口座に振り込まれている決算料は税理士個人の収入ではないかとの指摘を受け、その指摘を妥当と認めて、決算料の抽出を指示し、メモを作成させて、本件決算修正メモに綴り込んだ。
ところが、税理士は、前記の通り多忙と高齢のために、上記従業員が本件決算料メモを作成していたことを失念し、平成12年分の所得税の確定申告に当たっても、例年通り、前年の所得の内訳書を基本とし、依頼先の変更の有無等については確認をしたものの、本件決算料メモに記載された収入は、申告書には収入としてまったく計上されないまま、申告を行った。

これは、隠蔽又は仮装ではないかということで、重加算税賦課決定がされたということです。

(判決)
重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであり、この隠蔽、仮装と評価すべき行為としては、

「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまでは必要ではないが、少なくとも、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合でなければならないと解するのが相当であり、(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決 民集)」

単に、過少申告となることを予見し、認容していたとしても、これのみでは通則法第68条所定の仮装・隠蔽というには不十分であるといわざるを得ず、原告が、所得税の課税標準等又は消費税等の税額等の計算の基礎となるべき事実である、本件顧問料ノート又は本件各決算料メモに記載された収入金額から、当初の確定申告書の所得の内訳書中原告が概算で申告したとする収入を除いた収入金額に係る収入を、隠蔽し、又は仮装し、これに基づいて過少に申告し、又は申告しなかったと認めることはできない。

判決では、このようにいっています。

なお、引用されている最高裁判決は、よく出てくる規範です。

(事実認定)
(1)本件各決算メモが綴り込まれた本件各決算修正メモばかりか、その余の関係帳簿類についても、何ら隠匿、改変されることなくそのまま保管されており、しかも、本件各決算料メモないし本件各決算修正メモや前記補助帳簿と題する伝票と税理士や会社の各確定申告書等と照合すれば、収入の計上漏れが直ちに判明することが認められるのであるから、税理士のとった隠蔽仮装方法としては、あまりに稚拙かつ不用意に過ぎる。

(2)税務調査の際、資料の提示を求められた際、これを逡巡、拒絶することなく、本件各決算修正メモを提示しているのであって、この点からも、税理士には、上記決算料の収入からの除外を隠蔽・仮装しようとした意思があったものとは認め難い。

(3)税理士でありながら、自らの所得税の確定申告について、正確な申告をしようという意識に欠け、ひいて各種帳簿の点検、確認等もおろそかになっていたことは明らかというべきであり、税理士としては相当に問題があるが、原告がこのようなずさんな確定申告をしていた事実があること自体は否定し難いところである。本件各決算料メモによる収入除外も、上記の通りの税理士のずさんな態度に起因するものであるとしても、だからといって、税理士が隠蔽・仮装の方法によって上記収入除外をしたということはできず、係る事実を認めるに足りる証拠もない。

つまり、立証責任を果たしていないということです。

(4)したがって、上記収入除外は、税理士が単に本件各決算料メモの存在を失念し、しかも、上記ずさんな態度で自らの所得税の確定申告をし続けたのが真相というべきである。

以上から、仮装または隠蔽とまではいえないのだから、重加算税賦課決定要件は満たさない、として取り消しとなっています。

もう一つ判例を見ておきます。

「大阪地裁昭和45年10月27日判決(TAINS Z060-2634)」

(事案)
板金の下請加工業を営んでいた納税義務者が売上金を脱漏したことを理由として重加算税賦課決定を受けた事案。

課税庁は、
(1)脱漏分の3,314,234円は納税義務者の収入金額金14,762,348円の約22%に相当し、金額の大きさ及び収入総額中に占める比率のいずれからみても故意に隠蔽したものと思われること、
(2)調査によっても発見されにくい取引先の売上部分を隠蔽したこと、を理由として隠蔽仮装がある、と認定した。

(判決)
「脱漏分を故意に隠蔽し、その隠蔽したところに基づいて確定申告書を作成提出したとまで断定するに足る証拠のない本件においては、本件重加算税の賦課決定処分は旧通則第68条所定の要件を欠いてなされた違法なものといわざるを得ないから、これが取消を求める請求は理由がある。」

と判示して、重加算税賦課決定処分を違法として取り消しています。

【課税処分に当たっての留意点】

重加算税においては、過少申告のみで重加算税だと言ってくる調査官もたまにいると思いますが、過少申告のみでは足りないということです。

内部資料である、「課税処分に当たっての留意点(大阪国税局 法人課税課179頁)」には次のように書いてあります。

「過少な所得金額を記載した申告書を提出した行為のみをもって直ちに(1)で掲げた重加算税賦課の課税要件を満たしたことにはならないので注意が必要である。くれぐれも、所得金額が過少の確定申告書を提出して税額の一部を免れたことを内容とする『確認書』のみで安易に重加算税を賦課することがないように留意する。」

このように、わざわざここで注意しているということは、実務上、過少申告があれば安易に重加算税という主張をしてくることが多いのではないかと思います。

注意してくるくらいですから、本来は重加算税の要件を満たしていない事案も一定程度あるだろうと思います。

最後に、重加算税に関する最高裁ルールを見ておきたいと思います。

【最高裁ルール1:隠蔽又は仮装行為と過少申告行為との関係】に関する裁判例です。

「最高裁平成7年4月28日判決」
重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽、仮装と評価する行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する。

ということなので、重加算税を主張された際には、過少申告行為とは別に隠蔽、仮装行為があるのかどうなのか、このあたりを慎重にご判断いただければと思います。

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