【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/11/7

例えば、全国展開する飲食店が沖縄事業部のみを分割により移転することが考えられます。

そして、完全支配関係内の適格分割及び支配関係内の適格分割のいずれの要件も満たさない場合に税制適格要件を満たすためには、共同事業を行うための適格分割の要件を満たす必要があります。

しかし、分割前に分割法人において一体的に営まれていたことから、どのように事業規模要件を判定するのかが問題になります。

本記事では、共同事業を行うための適格分割における事業規模要件の判定方法について解説を行います。

事業規模要件の概要

吸収分割を行った場合において、事業規模要件を満たすためには、分割法人の分割事業と分割承継法人の分割承継事業のそれぞれの売上金額、当該分割法人の分割事業と当該分割承継法人の分割承継事業のそれぞれの従業者の数又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことが必要になります(法令4の3⑧二)。

そして、共同新設分割を行った場合において、事業規模要件を満たすためには、分割法人の分割事業と他の分割法人の分割事業のそれぞれの売上金額、当該分割法人の分割事業と当該他の分割法人の分割事業のそれぞれの従業者の数又はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことが必要になります(法令4の3⑧二)。

このように、売上金額又は従業者の数の規模の割合がおおむね5倍以内であれば、事業規模要件を満たすことができます。

ただし、合併における事業規模要件の判定と異なり(法令4の3④二)、資本金の額若しくは出資金の額により事業規模要件の判定を行うことができないという点にご留意ください。

分割法人における売上金額又は従業者の数の抽出方法

分割事業とは、分割法人の分割前に行う事業のうち、当該分割により分割承継法人において行われることとなるものをいいます(法令4の3⑧二)。

すなわち、分割法人における売上金額又は従業者の数を分割事業のみで判定することから、分割法人全体で判定するわけではありません。

従業者の数については、分割の直前で判定することからその抽出は容易だと思いますが、売上金額については、1年間の売上金額をもって事業の規模を把握することが一般的であるため(櫻井光照「企業組織再編税制について」租税研究 670 号 68 頁(平成 17 年))、分割事業に係る売上金額の抽出に手間がかかることが一般的です。

分割承継法人における売上金額又は従業者の数の抽出方法

吸収分割における分割承継法人の分割承継事業については、一部の事業を切り離すわけではないため、分割承継法人の事業で判定します。

ただし、「分割事業と関連する事業に限る(法令4の3⑧二)。」とされていることから、分割事業と関連する事業だけで判定するという点に留意が必要です。

共同新設分割における他の分割法人の分割事業については、一部の事業を切り離すことがあり得るため、分割承継法人に移転した事業のみで判定します。

さらに、分割承継事業と同様に、分割法人の分割事業に関連する事業に係る売上金額又は従業者の数のみで判定します。

具体例

それでは、具体的な事案に当てはめて検討したいと思います。

P社は飲食業を行っており、日本全国に店舗を有しています。

しかし、沖縄については、提供する料理が異なったり、食材の調達ルートが異なったりするため、単独での事業展開が難しいと考えています。

そこで、×8年4月1日に、沖縄で飲食業を営んでいるX社に分社型分割により沖縄事業部を移転するとともに、X社株式の交付を受けることでX社の発行済株式総数の35%を取得する予定です。

この場合には、P社から移転する事業が沖縄の飲食業であり、X社が営んでいる事業も沖縄の飲食業であることから、事業関連性要件を満たす可能性は高いと思います(法規3①二、②参照)。

そして、事業単位で移転することから、主要資産等引継要件、従業者従事要件及び事業継続要件を満たすようにすることは、それほど難しいことではありません。

金銭等不交付要件及び株式継続保有要件については、ストラクチャーの設計にもよりますが、これらの要件を満たせるように分割対価資産の調整をすることは、それほど難しいことではありません。

そのため、事業規模要件又は特定役員引継要件を満たせれば、共同事業を行うための適格分割に該当させることができます。

もし、X社において飲食業とは関連のない事業(ex.不動産賃貸業)を営んでいた場合には、X社全体の売上金額又は従業者の数ではなく、分割承継事業の売上金額又は従業者の数により、事業規模要件の判定を行います。

ただし、単一事業と認められる場合には、分割承継事業の売上金額又は従業者の数を抽出したとしても、X社全体の売上金額又は従業者の数と変わらないことになります。

実務的には、単一事業と認められる場合が多いことから、X社全体の売上金額又は従業者の数により事業規模要件の判定を行うことが多いと思われます。

これに対し、P社からX社に移転する事業は沖縄事業部であることから、分割事業については、P社全体の売上金額又は従業者の数で判定するのではなく、沖縄事業部に帰属する売上金額又は従業者の数になります。

このうち、売上金額については、分割の日前1年間の×7年4月1日から×8年3月31日までの売上金額のうち沖縄事業部に係る金額を抽出し、その金額を X社の分割承継事業に係る×7年4月1日から×8年3月31日までの売上金額と比較することになります。

そして、従業者の数については、分割の日の前日である×8年3月31日に分割事業である沖縄事業部に主として従事している従業者の数を抽出し(法基通 1-4-4(注 3)参照)、その数とX社の分割承継事業に従事している従業者の数と比較することになります。

まとめ

このように、吸収分割における事業規模要件の判定上、分割法人については、分割法人全体ではなく、分割事業のみで測定を行います。

そして、分割承継法人については、分割事業に関連する事業のみで測定を行います。

これに対し、共同新設分割については、分割法人及び他の分割法人のいずれも、分割法人全体ではなく、分割事業のみで測定を行います。

そして、他の分割法人の分割事業については、分割法人の分割事業に関連する事業のみで測定を行います。

そのため、適格合併における事業規模要件とは、判定の仕方が異なるという点にご留意ください。

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