履歴書や職務経歴書(あるいはエントリーシート)の中には抽象的な記載内容なものが目立ち、その理由の一つとして「履歴書の使い回し」が考えられると先に述べました。
しかし、本人は使い回すつもりは毛頭ないのでしょうが、具体性に欠いた抽象的な履歴書・職務経歴書もこれまで相当数見てきました。
例えば次のような志望動機や自己PRの一文を見たことはありませんか?
抽象的な表現になっていないか?
「前職で○○業務を経験し、事務職としてのスキルを得ることができた」
「前職での経験を生かして、御社の業務発展に貢献したい」
「貴社の開発している商品の魅力に魅かれ、自分でもそのような商品を生んでみたいと感じた」
「○○職に就いて部下の指導を行い、リーダーシップを身につけることができた」
このような内容がいろいろと書かれているのですが、選考する側としては結局のところ「経験・スキルは何もない」と判断しなければなりません。
もし、書類選考を通過させ採用面接に進めたとしても、面接官が具体的な内容を引き出すような質問ができなければ、抽象的なやり取りに終始することになるでしょう。
具体的な内容が記載されたものであれば、その根拠となる数値や固有名詞が数多く挙げられているはずです。
例えば次のような場合です。
「○年度の営業成績が全社1000人中第1位となる」
「社内の業務改善に関する提案制度に8件応募し、そのうち3件が採用される。その結果、○%のコストダウンに成功した」
ちょっとしたポイントを押さえるだけで、自社の採用選考がスムーズに進むはずです。
ただし、採用面接に進めた場合には、成果に対する裏付けを必ず確認しなければならないのは当然です。
「海外留学」「TOEIC」「勉強中」に誤魔化されない
新卒採用の場合、「海外留学経験あり」とか「TOEIC800点」と書かれた履歴書やエントリーシートに出合うことがあります。あるいは「○○の資格取得に向けて勉強中」というアピールもよく見られます。
でも、それだけの情報で「なかなか良さそうな学生だ」と安易に思ってはいけません。
そう思ってしまった経験のある方は、人事評価の場面でよく引用される「ハロー効果」に陥っていたのかもしれません。
ハロー効果とは、特に優れた(または劣った)点を見つけると、その特徴に引きずられ、それ以外の点もすべて優れている(または劣っている)と思いこんでしまう心理的効果をいいます。
広告代理店で新卒採用試験を行ったときのケース
広告代理店は人気業種ということもあって、募集期間が短く、採用予定数も10名足らずであったにもかかわらず多くの学生からの応募がありました。
履歴書とエントリーシートを書類選考に必要な書類として提出していただきましたが、当時その中でも特に目立った内容が次のようなものでした。
「○か月間、海外留学(ホームステイ)をして見聞を広めた」
「1週間ほどボランティア活動に従事してチームワークを学んだ」
「TOEIC800点」「TOEIC900点以上」
「目立った」というのは、多くの学生がこのような内容を書いてきたから目に付いたという意味です。つまり私たちにとってはごくありふれた、特段興味を魅かれるようなものではなく、そのため、それだけを理由に学生を次の選考に進めることはありませんでした。
例えば、わずか数か月間の海外留学で何が得られ、当社の仕事にどう生かせるのだろう? と思っていましたし、ボランティアで学ぶチームワークと営利を目的とする企業活動で求められるチームワークとは全く別物だからです。
勉強中であることをアピールする履歴書
「簿記2級の資格取得に向けて勉強中」のように、現在取得はしていないものの、勉強中であることをアピールする履歴書等があります。
私も過去には資格試験の勉強中であることを職務経歴書に記載し、実際に転職した経験がありますが、採用側にはどのように映るでしょうか?
結果
採用する側の立場から申し上げれば、このようなアピールをされても「だから何?」「はぁ、 そうですか……」で済ませてしまうことでしょう。
新卒採用試験で学生がアピールするならまだしも、30代や40代の転職希望者に同じようなことをされても、採用に直結することはまずありません。
会社にとって必要な資格であれば既に資格を保有している方を、もし現時点で取得していないのであれば、より若い方を採用しようと考えるのが通常です。
時々、2つも3つも「勉強中」と書いてくる方もいますが、やはり採用は避けたいところです。
理由は、こういう方は転職の繰り返しで、自分の経歴が汚れてしまい、切羽詰まっていることが多々あるからです。
つまり、取得した資格で会社に貢献したいという前向きな思いではなく、資格さえ取ればなんとかなる、あるいは資格を取得して箔づけしようとする傾向がみられます。