今回のテーマは、「税理士に対する損害賠償(契約書による税賠防止)」です。

契約書によって税理士損害賠償を防いでいきましょう、というお話になります。

内容については、私が執筆した書籍『税務のわかる弁護士が教える 税理損害賠償請求の防ぎ方』の中の一部について解説していきます。

「契約書で何ができるのか」

①業務を限定することができる

契約書に書かれていない業務で損害賠償請求を受けないようにする、ということです。
業務範囲が、税理士損害賠償で争いになることは結構あるのですが、契約書を締結していない場合に特に多いです。
契約書を締結していれば、そこに業務範囲が書かれているので、裁判所で認定しやすくなるということです。
逆に言えば、契約書に書かれていない業務は、本来の業務範囲から外れていると認定されやすくなる、ということになってきます。

②税理士の義務を限定することができる

全ての確認作業を自分の義務にしない、ということです。
依頼者側は往々にして、「私は税務については素人です」、「先生がやってくれないとわかりません」、「この業務もお願いしたはずです」というように言ってくるため、業務範囲の中で資料の確認義務などが増え、税理士側の義務が広くなっていってしまいます。
そうすると、不可能を強いるようなもので、すべてにおいて税理士が確認をしなければならなくなる、という状態になります。
したがって、契約書において、依頼者の行うべきことと、税理士が行うことの役割分担の範囲を明確にすることによって税理士の義務が広がってしまうのを防ぐことができる、ということです。

③損害賠償額の上限を設定することができる

税理士がミスをして損害賠償になった場合、確かに支払うが、その上限金額を規定しておくということです。

④税理士からいつでも解約できるようにしておくことができる

税理士の契約は、原則として委任契約ということになるので、いつでも解約できることが原則になります。
ところが中には、なかなか解約させてくれないという依頼者もいて、解約するのが難しいというケースがあります。
そうしたいう場合、契約書に「いつでも解約できる」と規定していれば解約しやすい、ということになります。

「契約書を整備するメリット」

①契約書に時間をかけるのは最初だけ

契約書の作成、締結を面倒に感じる方もいると思いますが、ある程度時間がかかるのは最初だけです。

②契約成立後は契約書のことは忘れて業務に専念

判子を押し合えば、あとはお互いに契約書は畳んでしまっておくだけで、その後は契約書の存在を忘れて、業務に専念するということになると思います。

③トラブル発生時に契約書の防御システムが作動する

いざトラブルが発生した場合には、契約書に規定している内容=防御システムが作動することになるので、契約書を整備することは非常に重要になります。

「税賠の際の税理士の抗弁」

①「それは私が行うべき業務に含まれません」(契約書)

これは業務範囲が争いになる事例ですが、契約書で業務範囲について定めておけば立証できる、ということになります。

②「それは業務には含まれるけれども、そこまでは要求されていません」(契約の解釈)

これは契約の解釈なので、契約書では如何ともし難い面があります。

③「業務は確かに不十分でしたが、依頼者には損害が発生していません」(法律問題)

これは法律問題なので、契約書では防ぎきれません。

④「損害は発生しましたが、それは依頼者の責任であって、税理士の責任ではありません」(契約書)

役割分担を決めておけば、「それは私の役割ではない」と立証できるので、契約書で規定しておけば、ある程度立証できるということになります。

⑤「損害は発生しましたが、賠償金額はこの金額が限度です」

賠償金額の上限を定める規定です。
これは契約書に書いておかないと抗弁で使えません。
口約束では、とても立証できないからです。

これらのことを考えると、契約書がとても大切だということがわかると思います。

では、実際の事案を見てみましょう。

東京地裁平成24年3月30日判決(判タ1382号152頁)です。

(事案)
顧問税理士が、消費税法上の課税事業者選択届出の提出に関する指導・助言をすべきだったのに、その義務を怠ったために、期末に在庫として有していた棚卸資産に関し、仕入控除を受けられなかったとして訴えられた。

【請求棄却】(税理士勝訴)
①顧問契約上なすべき義務は、契約書に明記された税務代理や税務相談等の事項に限られる。

つまり、契約書に明記されたことがそのまま認定されている、ということです。

②依頼者の業務内容を積極的に調査し、又は予見して、税務に関する経営判断に資する助言、指導を行う義務は原則としてない。

③ただし、課税上重大な利害得失があり得ることを具体的に認識し又は容易に認識し得るような事情がある場合には、付随的義務として助言・指導する義務がある。

契約書に書かれていないものについては、義務はありません。

これは原則です。

しかし、税理士であれば当然気づくようなことで、かつ納税者にとって重大な損害が発生するようなことがあれば、助言・指導するべきだ、ということです。

では、契約書にはどのように規定されていたのでしょうか。

契約書の委任業務の範囲は、税務代理及び税務書類の作成、税務調査の立会、税務相談、会計処理に関する指導及び相談、財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行、となっていたので、税理士法にある普通のことが規定されていました。

ところが、税務に関する経営判断に資する助言・指導を行う旨の業務(いわゆる税務に関する経営コンサルタント業務)まで含むとは定められていませんでした。

そこで最終判断としては、委任事務の遂行に必要な資料等を提供する責任は依頼者にある(①の運営業務範囲)、そして③の責任分担規定が機能したことで、税理士勝訴となったということです。

契約書で業務範囲を限定するのは、非常に重要なことです。

そこで最後に、注意ポイントをまとめておきたいと思います。

①業務を行う際は、必ず契約書を締結する。

②契約書で業務範囲を明確かつ限定的に記載する。

ここで重要なのは、義務として行うもののみを記載することです。
リップサービスで、経営コンサルティング業務などと記載してしまうと、先述の判例裁判のような事例では敗訴する可能性があります。
ですから、「これを行わなければ損害賠償で訴えられる」とか、「これを行わなければ契約解除される」というような義務として行うもののみを記載するということになります。
そして、経営コンサルティング業務のような、実施する可能性はあるが、ないかもしれないというような業務は記載しない、ということが重要です。

③契約書で依頼者との責任分担を明確にしておく。

【記載例】
1.会計帳簿は甲が作成するものとし、乙は会計帳簿の正確性及び原始帳票の確認を行う義務はないものとする。

2.乙は、甲が作成した会計帳簿を前提に税務書類の作成及び申告代理を行うものとする。
(※甲は依頼者、乙は税理士)

このように記載しておけば、明確に役割分担ができることになるので、不要に税理士の義務が広がっていかない、ということになります。

今回は、契約書でいかにして損害賠償を防いでいくか、について解説しました。

とにかく、業務行う時には、必ず契約書を締結していただきたいと思います。

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