みなさん、こんにちは。
行政書士法人横浜医療法務事務所の岸部宏一です。
今回は、私のクライアントである個人のドクターが買い手となり、実際あった医療法人の事業譲渡の事例についてご紹介をしたいと思います。
売り手は、後継者がいない医療法人で、診療所(旧法医療法人)をひとつ経営していました。
買い手である、私のクライアントである個人のドクターのもとに、売り手側の税理士さんが作成した契約書案が届きました。
そこで、私にその内容の確認の依頼がきたのです。
契約書案の第一条(目的及び対価)には、
自己が有している本法人の持分のすべて及び本法人及び本法人が経営する診療所に関する権利の一切を乙に譲渡する。
その権利は金〇〇萬円とする……
と記載されていました。
さらに、この契約書案には第二条として、対価の支払い方などが記載されていたのですが、なんとそこで終わってしまっているのです。
通常では、この後に実際の手続きや作業などについての規定が記載されるものです。
「これでは、まったくお話になりません」と、その契約書案を先方に突き返してしまうのは簡単ですが、そういうわけにもいきません。
そこで私は、この契約書を生かす方向で考え、さまざまな覚書等を追加することにしました。
例えば、持分の譲渡を受けた後の役員や社員の交代について、どのような手続きで行うのかなどです。
(実際には、こうした条項などが契約書の大半を占めます。)
そして、こちらから新たな事項を追加した契約書案を先方に送りました。
すると、先方の税理士さんからは次のような回答が届いたのです。
「持分譲渡により当然全役員が交代するので、旧役員の退社届けや辞任届けについて契約書にすることは不要です」
「第二項、事業譲渡を受けた後の、持分譲渡を受けてお金を払った後の手続きに関しても、売主は無関係なので、契約書に記載することは不要です」
「これは困った……」と思いましたが、たまたま幸運なことに、売り手側の弁護士さんが私の旧知の先生だったものですから、仲介していただいて、例の税理士さんとお会いすることになったのです。
そこでわかったのは、税理士さんには悪気はなく、医療法人の制度について全くご存じなかった、ということでした。
持分譲渡、要するに持分を持っている人が変わると社員が全部自動的に変わると思っていたらしいのです。
社員が自動的に変わると、役員も全部自動的に変わる、と思っていたということです。
旧法医療法人の持分とは、要するに財産権になるのです。
その財産権が移動したとしても、それは法人に対する財産分配請求権や退社時の払戻請求権といった純然たる財産権だけの話で、社員たる地位とは全く関係がないのです。
そうしたことを、この税理士さんが理解されていなかったということが、お話をしてわかりました。
最終的には、間に入ってくださった弁護士さんに上手くまとめていただき、私が作成した契約書で契約を完了。
私のクライアントである買い手側には実害がなく、一件落着となったのでした。
先方の税理士さんの感覚としては、株式会社の株式の話と医療法人の持分の話が、頭の中で同一になっていたということのようでした。
私は医療機関の仕事以外、全くしたことがないものですから、逆に税理士さんの考えが理解できず、お互いが全くかみ合わない議論をしていた、ということが後になってわかったということです。
医療法人の制度を税理士さんがご存知ないのは仕方がないのかもしれませんが、それならば、その都度ご相談いただいていればよかったと、後になって考えさせられた出来事でした。
このようなことがあった場合は、ぜひとも早めにご相談いただければと思います。