今回は、「貸倒損失の立証責任」について解説します

【立証責任とは?】

立証責任というのは、事実があるかどうか認定できないような場合に、いずれか一方の当事者が負う不利益または負担と説明されています。

これは、先生方は、ご承知だと思います。

課税要件事実の立証責任はどちらにあるか、ということなのですが、最高裁判決があります。

「所得の存在及びその金額について決定庁(課税庁)が立証責任を負うことはいうまでもないところである。」(最高裁昭和38年3月3日判決 月報9巻5号668頁)

一般的には、立証責任は課税庁にあるといわれています。

ただし、裁判例の中には、項目によっては、「立証責任は納税者側にある」とするものもあります。

そして、「貸倒損失の立証責任については、納税者が負う」と判断した事例があります。

「仙台地裁平成6年8月29日判決」

貸倒損失は、通常の事業活動によって、必然的に発生する必要経費とは異なり、事業者が取引の相手方の資産状況について十分に注意を払う等合理的な経済活動を遂行している限り、必然的に発生するものではなく、取引の相手方の破産等の特別の事情がない限り生ずることのない、いわば特別の経費というべき性質のものである上、貸倒損失の不存在という消極的事実の立証には相当の困難を伴うものである反面、被課税者においては、貸倒損失の内容を熟知し、これに関する証拠も被課税者が保持しているのが一般的であるから、被課税者において貸倒損失となる債権の発生原因、内容、帰属及び回収不能の事実等について具体的に特定して主張し、貸倒損失の存在をある程度合理的に推認させるに足りる立証を行わない限り、事実上その不存在が推定されるものと解するのが相当である。

そして、「法人税基本通達の9-6-1」は次のように記載しています。

(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額。

先ほどの裁判例によると、債務超過の状態が相当期間継続した、ということを納税者が立証しないといけないということになります。

ところが、債務者(取引先)が債務超過なのかどうなのか、決算書等を交付されていなければ知る由もありません。

そのため、債務超過の立証というのは非常に困難だと考えられます。

また、「法人税基本通達9-6-2」は次のように記載しています。

法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払い能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。

取引先の資産状況、支払能力を納税者が知るというのは非常に難しいところだと思います。

ですから、それを立証するとなると、非常な困難を伴うということになります。

反面、課税庁側はどうかというと、取引先について税務調査を行うことによって債務超過、資産状況、支払い能力などは容易に立証可能ではないかと考えられます。

したがって、先ほどの裁判例では、「貸倒損失の立証責任は納税者が負う」のだと言っていますが、このような状況を見ると、課税庁側が負う方が正しいのではないかと考えています。

先生方の中で、このような件を争いたいという場合には、この点をぜひご検討いただければと思います。

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