今回は、重加算税について税理士の隠蔽仮装に関する最高裁判例を解説します。

参考書籍として、私が執筆した『税務のわかる弁護士が教える 税務調査における重加算税の回避ポイント』も参考にしていただければと思います。

【重加算税賦課要件(過少申告)】

過少申告についての重加算税の条文は、国税通則法第68条1項に規定しています。

①過少申告加算税の規定に該当する場合において
②納税者が
③その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し
④隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた

これらの場合に成立するということです。

今回は、税理士が隠蔽また仮装した場合はどうなのかということで、②の「納税者が隠蔽、仮装した」といえるのかどうか、という問題です。

早速、裁判例を見ていきましょう。

これは、とても有名な判決です。

「最高裁平成18年4月20日判決(判例時報1939号12頁、TAINS Z256-10374)」

(事案の概要/税理士の行為)
(1)Xは、平成8年に居住用財産である練馬区所在の土地建物(以下「本件物件」という。)を9600万円で譲渡するとともに、大田区所在のマンション及びその敷地共有部分を5,780万円で購入して転居した。

(2)Xは、本件物件の譲渡に係る所得税の確定申告手続きを夫の丁に依頼したところ、丁は、確定申告時期が近づいた同9年2月頃、雪谷税務署に相談に行き、税務署職員から上記譲渡に係る税額が国税と地方税とを合わせて800万円程度であると言われた。

それは、以前から、練馬区の区民相談において説明を受けていた金額と同程度のものだった。

(3)丁から相談を受けた乙税理士は、丁らが持参した書類等を見ながら自ら計算した上、長男作成のメモに記載された税額である804万円について「大体、そんなものでしょう。」と述べた上で、自らメモを作成しながら、「550万円で税金はあがるでしょう。

その他に10万円を手数料として事務員に渡してくれ、全部で560万円。」と言った。

丁は、どうしてそんなに安くなるのかと聞いたところ、乙税理士は、「私は長いこと税務署に勤めていたから、素人と計算が違う。ちゃんと計算ができるから間違いありませんよ。」と答えたため、更に質問することはなかった。

丁らは、確定申告手続きを乙税理士に委任することとし、翌日、同税理士の事務所を訪れて560万円を同税理士に交付した。

(4)乙税理士は、Xが住所を練馬東税務署管内に移した旨の虚偽の通知をした上、同年3月5日、練馬東税務署の資産課税部門統括官に対し、Xの平成8年分の所得税について、Xを代理して、税理士名欄を空欄とし、被上告人の住所欄に練馬区内の虚偽の住所を記載し、虚偽の必要経費等を記載した上、課税譲渡所得金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書を提出し、併せて、本件物件を平成2年に1億0600万円で取得したとの虚偽の記載をした「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面を提出した。

税務署の統括官は、本件確定申告書に受理印を押捺して、表面の検算欄及び裏面の分離長期譲渡所得記載欄外の2カ所に自己の印を押捺した上、控えを乙税理士に交付した。

なお、統括官が賄賂を受け取ったとか、乙税理士の依頼により故意に脱税に加担したという事実は認められない。

(5)乙税理士は、本件確定申告書及び本件お尋ね文書につき、丁らにその内容を説明したり、Xの署名押印を求めたりすることもなく、上記のような申告手続きをし、Xから預かった550万円を納付せずに自分で取得した。

他方、X及び丁らは、確定申告手続きを乙税理士に依頼した後、平成9年10月に東京国税局査察部による調査があるまで、同税理士に対し、確定申告書の控えや納税に係る領収書等の交付を要求したり、申告について税務署に問い合わせたりはしなかった。

(6)乙税理士は、平成8年暮れごろから、従前の税務申告につき不正申告の疑いを抱かれ、東京国税局査察部の調査を受けるなどし、同9年10月に逮捕され、同10年7月、贈賄、所得税法違反等の罪より懲役刑の実刑判決を受けた。

(7)東京国税局査察部は、同9年10月21日、Xに対する臨場調査に着手した。

Xは、上告人の指導に基づき修正申告をした。

(8)上告人は、Xに対し、重加算税を賦課する決定処分を行った。

納税者が隠蔽仮装したわけではなく、税理士が隠蔽仮装したわけですが、これは納税者に重加算税が付加される要件を満たしているのかどうなのかが争点となります。

(重加算税の賦課要件)

(1) 納税者が税理士に納税申告の手続きを委任した場合であること。

(2)納税者において当該税理士が隠蔽仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができたこと。(認識可能性)

(3)法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたこと。(回避可能性)

(4)納税者においてこれを防止せずに隠蔽仮装行為が行われたこと。

(5)に基づいて過少申告がされたこと。

(6)税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえないこと。

まず、納税者が税理士に委任した場合であること。

それから、税理士が隠蔽仮装を行うことを認識していたか、または容易に認識することができた場合であって、かつ申告期限までに是正できた場合であること。

しかし、是正しなかったということが必要なのだということになります。

なお本件では、知らなかったわけですし、容易に認識することができなかったということで、重加算税は取り消されています。

【要件を満たさない場合とは?】

では逆に、要件を満たさない場合について考えてみます。

(1)税理士が隠蔽仮装行為を行うこと、もしくは行ったことを容易に認識できなかった場合。

(2)法定申告期限までに、その是正や過少申告防止の措置を講ずることが期待できなかった場合。

(3)納税者において、これを防止しようとしたのに隠蔽仮装行為が行われた場合。

(4)単に落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠蔽仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。

これらの要件を満たさない場合に該当するようなことがあった場合には、これをもって税務調査で調査官に反論していくということになるかと思います。

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