今回のテーマは「税理士は通達によらない処理をする場合にどこに注意すべきか」です。

税理士は税法の専門家ですから、税法は当然守らなければなりません。

ところで、税務行政は通達に基づいて行われています。

したがって、税理士も、通達を確認してから、通達に従って業務を行うということになるのですが、通達が法律に違反している場合もありますし、通達によらない処理をすべき場合も、まれに生じてくると思います。

その場合、通達によらない処理をすることが許されないわけではないのですが、どういった点に注意しておくべきなのでしょうか。

裁判例を見ていきます。

東京高裁平成10年11月9日判決(TAINS:Z99-0037)、財産評価基本通達によらない申告をした事例です。

税理士は相続税申告代理業を受任しました。
相続財産である土地の評価について、宅建主任者である依頼者が評価した時価で評価して相続税申告をしました。
しかし税務署により、当該評価が否認され、修正申告せざるを得なくなったので、過少申告加算税、延滞税などがかかってしまった、という事例です。

これは税理士の責任だということで、損害賠償請求された、という事案になります。

基本の確認をしていきます。

まず、財産評価基本通達です。

「評価の方式11」
宅地の評価は、原則として、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げる方式によって行う。
(1)市街地的形態を形成する地域にある宅地 路線価方式

と書いてあります。

ところが、本件では宅建主任者である依頼者が評価した時価で行ったということです。

そこで、本件評価は路線価と比べてどうなっているのかという点がポイントになるのですが、本件の評価は次のようになっています。

・相続開始年の正面路線価を20万円ほど下回る時価で行った。
・申告後に作成された不動産鑑定書の評価額を5万円前後下回っている。
・税理士としては否認の可能性があることを当然認識していたはず。

判決では、否認の可能性を指摘して、かつ、評価が適正であることを裏付ける不動産鑑定士の鑑定書などを用意するよう助言指導すべきだったのにそれをしなかった、ということで358万円の賠償命令が出されものです。

この判決の中で注意していただきたいことがあります。

・否認の可能性があれば、それを説明しないといけない、かつ、その説明したことを証拠化しておかなければならない。
・書面化して依頼者の署名押印を得ておくなどしておかないといけない。

上記2点は当然のことなのですが、これだけでは足りないということです。

通達に反する処理をした場合には、当然、否認の可能性があるのですが、その場合に、「こちらの評価の方が適正である」という資料を準備しておくように助言指導しなければならない、という義務があるということです。

「リスク説明と依頼者の同意だけでは不十分」ということに、注意をしていただきたいと思います。

次の裁判例は、仙台高裁昭和63年2月26日判決(事案)です。

これは、第三者から損害賠償請求される事案についてです。

Xは、甲会社から、事業資金の融通並びに金融機関からの借り入れに必要な保証と担保の提供を依頼され、2期分の黒字の確定申告書の写しを示されました。

ところが、訴外会社は営業実績赤字の状態で、赤字の確定申告書を税務署に提出していました。

つまり、異なる二重の申告書を作っていたということです。

しかし、Xは、甲会社の代表者から示された、黒字の方の確定申告書の写しの記載の真実と誤診し、銀行に対して、Xとその身内の者が甲会社のために連帯保証して、不動産を提供しました。

甲会社は、その後倒産したためにXらは総額2億円余の支払いをしなければなりませんでした。

税務署に提出した赤字の申告書及び、Xに示された黒字の申告書は、税理士Yが作成したものでした。

そこで、Xは、税理士Yが作成した虚偽の確定申告書に基づいて連帯保証及び担保提供したことにより損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求をしたということです。

税理士に対する損害賠償の法的構成は、次の2つです。

(1)契約に基づく債務不履行責任

(2)不法行為責任

本件は不法行為責任です。

なぜかというと、契約関係にないからです。

第三者から請求される場合を不法行為責任ということになります。

もちろん、裁判所は税理士の責任を認めています。

・Yはこれにより甲会社に対して融資をするものが損害を受けるかもしれないことを予見しながら、あえてこのような虚偽の内容を記載した書類を作成したものであることが認められる。

・Yは、その作成した書類の記載を信用して融資をし(保証して担保提供した場合を含む)、損害を受けたものに対しては、その損害を賠償する義務がある。

これは故意なので、この判決は当然なのですが、過失でも同じことになります。

虚偽の内容を見抜けなかった場合、見抜けないことが注意義務違反だという場合には同じ結論になります。

さらに、税理士の損害賠償だけではなく、もう1つ注意しておかなければいけないのが、懲戒です。

税理士の懲戒は、税理士法第45条です。

「税理士法第45条」
1  財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為したときは、二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。

2 財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り、前項に規定する行為をしたときは、戒告又は一年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。

「過失によって真正の事実に反する税務書類の作成をした場合には懲戒事由である」ということです。

過失に2項が適用される例は少ないと思いますが、懲戒事由にこうした定めがあることは覚えておかなければなりません。

なお、国税局のホームページに懲戒事例がありますが、令和元年に次のようなものがありました。

被処分者は、関与先であるA社及び B社の消費税及び地方消費税の確定申告に当たり、従業員に対する給与について、その一部を外注費に計上することによって、消費税及び地方消費税額を圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

これは故意が認定されているわけです。

社長に「給与を外注費に計上したい」と言われて、押し問答で「これはダメです」「これは給与なんです」と言ったけれども、押し切られてしまったという場合には、税理士に故意があることになります。

「給与であることを知りながら、外注費に計上した」ということは故意になるので、この事例に当てはまってしまう場合がある、ということになります。

今回は、税法以外の通達に反する処理を行う場合に、どういう注意が必要なのか、また第三者からの損害賠償ではどういう事例があるのか、また懲戒にも備えておかなければならない、ということについてお話をしました。

税理士業務に役立つ実務講座16種類を無料で視聴できます
おすすめの記事