執筆:弁護士・税理士 谷原誠

税理士の先生より「事前確定届出給与の株主総会決議の仕方」について、
税理士を守る会でご質問をいただきましたのでご紹介いたします。

質問

対象の会社の状況は以下のとおりです。

 ・株主数 4 名(A代表取締役:500株、B取締役:300株、C取締役:500株、D取締役:300株)
 ・内CとD2名が前年8月に退職
 ・取締役会は設置していない
 ・今期2月に社員EとFが新たに取締役に就任

事前確定届出給与を翌事業年度にEとFに支給したいと会社が考えています。

AとBだけで過半数の議決が得られないので事前確定届出給与の支給時期と支給額が決められません。

この場合、CとDから「議長一任の委任状」をもらい、事前確定届出給与の支給時期と支給額を決議した場合、会社法上も法人税法上も法的に抵触しないでしょうか。

また、この決議にCとDが実際に出席した場合、会社経営に参画したものとして退職の事実がないものとしてCの退職金が法人税法上否認される可能性があると考えますが、議長一任の委任状出席の場合は否認されないでしょうか。

この場合、会社法上も法人税法上も法的に抵触しない方法を教えてください。

回答

株主総会決議の方法

事前確定届出給与も役員報酬になるので、定款または株主総会決議により定めることとされています(会社法361条1項)。

会社法第361条第1項

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

本件で定款の定めがなければ株主総会で決議することになります。
そして、CおよびDも株主ということですので、株主総会に出席し、議決権を行使することになります。

ここで、CおよびDによる株主総会への参加および議決権の行使が経営に参画していることにならないか、とのご懸念からのご質問だと推測します。

 しかし、役員報酬は、取締役会ではなく、株主総会で決議すべきものです。

 株主総会での議決権行使は取締役としての業務執行ではなく、株主としての権利行使となります。

 したがって、CおよびDが株主総会に参加して議決権を行使しても、これだけをもって会社経営に参画したことにはなりません。
(議長一任の委任状でもいいですし、実際に参加してよい、ということになります。)

 ただし、事前確定届出給与の支給の議案と株主総会の招集は、取締役の過半数で決定しますので(会社法348条 2 項)、これをA、B、C、Dで決めたような場合には、実質的に業務執行として取締役の協議に参加した、と主張されかねませんので、ご注意いただければと思います。

 また、株主総会の定足数は、原則として議決権の過半数を有する株主が出席する必要がありますが、定款で定足数要件をはずしている場合もありますので、ご確認いただければと思います。

 定足数が議決権の半分未満になっている場合には、C、Dが出席しなくても決議できることになります。

事前確定届出給与に関する裁判例

 多くの問題が生じるところで、法令解釈通達 9 - 2 - 4 において、「所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合にはこれに該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入となることに留意する。」とされていることを当該法人に説明し、説明した旨を証拠化しておくことをおすすめします。

 この点に関する参考判例として、東京地裁平成24年10月 9 日判決(百選6 版58事件、TAINS Z262-12060)があります。

 本件事案は、株式会社が、A・B2人の取締役に対し、事前確定届出給与として、冬期および夏期にAに各500万円、Bに各200万円を支給する旨の株主総会決議をし、冬期には決議どおり支給したものの、当該事業年度に厳しい経済状況による業績悪化があったため、臨時株主総会を開催し、夏期賞与の支給額を甲250万円、B100万円に減額する決議をし、その旨支給したものです。なお、期限内での変更届出はされていません。

 この事案において、裁判所は、次のとおり判示しました。

「役員給与のうち定期同額給与等のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入しないこととされたのは、法人と役員との関係に鑑みると、役員給与の額を無制限に損金の額に算入することとすれば、その支給額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずるおそれがあり、課税の公平を害することとなるためであると解される。」

「内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に、当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは、・・・

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