税理士の懲戒処分に関する関連記事

今回は、税理士が外注費と給与の処理で懲戒処分された事例について解説します。

国税庁のホームページで、気になる懲戒事例を発見しました。

(懲戒事例)
被処分者は、関与先であるA社及びB社の消費税及び地方消費税の確定申告に当たり、従業員に対する給与について、その一部を外注費に計上することによって、消費税及び地方消費税額を圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

ということで、「税理士業務の禁止」という懲戒処分がされています。

税理士業務の禁止というのは、税理士登録抹消処分をされて、処分日から3年を経過する日まで税理士資格がない、という懲戒処分になります。

この文章しか掲載されていないため、詳しい事例がわからないのですが、気になったので、シェアしていきたいと思います。

【懲戒処分の根拠規定】

まず、懲戒処分の根拠規定です。

税理士法第45条(脱税相談等をした場合の懲戒)

1.財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理もしくは税務書類の作成をしたとき、又は第36条の規定に違反する行為をしたときは、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。

なお、2項は故意ではなくて、相当な注意を怠った場合の懲戒規定になっています。

【給与と外注費】

次に、給与と外注費の問題です。

給与所得というのは、最高裁昭和56年4月24日判決の弁護士顧問料事件によると、

「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」

とされています。

外注費には、決まった定義はありません。

委任契約や請負契約で外注に出したり、あるいは無名契約といって、さまざまな契約が合わさった混合契約という場合がありえます。

つまり、外注費の契約形態は一律ではないということです。

委任契約というのは、「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」(民法第643条)ということで、税理士の一般的な顧問契約は委任契約であるとされています。

請負契約というのは、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」(民法第632条)ということで、典型例としては建築請負契約などがあげられます。

つまり、仕事を完成させるというのが請負契約です。

無名契約は、有名契約(法律に名称や内容が規定されている契約類型)以外の、法律に書いていない種々雑多な契約のことです。

【外注費の法的基準】

これは、どの先生方もご存知の消費税基本通達で大体の基準が示されています。

「消費税法基本通達1-1-1」

事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。

したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。

この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。

(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。

(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。

(3)まだ引き渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。

(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。

これは請負契約について書いたものなので、完成品や引渡しなどについて書かれているということです。

【外注費の要件を満たさない場合】

外注費の要件を満たさない場合は当然、税務調査があれば否認されて給与認定されます。

そして、消費税、源泉所得税、加算税、延滞税、重加算税等のさまざまな不利益が生じる可能性が出てくることになります。

税理士には、依頼者に適正処理の助言指導をする義務があるので、その義務を怠ると税理士損害賠償の対象になってくるということになります。

【税理士に対する損害賠償の問題】

まず、依頼者の経理処理を確認して、外注費として認められるための要件をもちろん説明します。

そして、本件では要件を満たしていないので、「これは外注費に計上されていますが給与です」ということを助言します。

その上で、「このまま税務申告等をすると、将来の税務調査で否認されて給与認定され、消費税や源泉所得税、加算税、延滞税、重加算税等が課されるといった不利益が生じる可能性がある」という不利益説明をしなければなりません。

そして、説明したことを証拠化しておく、ということになります。

しかし問題は、そうした上でどのように処理するかです。

例えば、依頼者が、「どうしても外注費にしてほしい」と言ってきた場合、税理士としては「これは要件を満たさないので無理です、給与です」と言ったとしても、議論が平行線になったとします。

そして、税務申告期限がギリギリになった時に、税理士としては「これではできません」と言うのか、それとも仕方がないから一旦これで行うのか、という判断を迫られるということです。

ではここで、外注費として処理したとすると、どうなるでしょうか。

税理士は、説明を証拠化するので、本件支払いが外注費ではなく給与であることを認識していたことの証拠が残る、ということになります。

税理士損害賠償を防ぐために証拠化をしないといけないのですが、それは、「これは外注費ではないです、給与です」ということを説明した証拠になるので、給与として認識していながら外注費として処理したという外形が残ってしまうわけです。

そうすると、不真正な税務書類を作成した故意があるということになり、税理士法第45条1項に違反したということで、理論的には懲戒処分の可能性が出てきてしまうということです。

外注費か給与か、について迷うことがあるかと思いますが、給与だと認識しながら外注費で処理すると、懲戒処分の可能性も出てきてしまう恐れがあります。

自分はどうするのか、あくまで申告しないという選択をするのかどうなのか、熟慮していただければと思います。

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