今回は、税理士が損害賠償請求を受けた時は、どう対応したら良いか? というテーマについて解説していきます。
【損害賠償請求を受けた時のポイント】
(1)事実関係の整理、確認
・時系列でメモを作成する(評価を除く)。
・メモを作る際は、事実と評価を分ける。
「不注意で〇〇を行ってしまったが、これは失敗だった」というような評価は書かなくていいです。
なぜなら、事実だけを羅列していかないと混乱するからです。
・事実に対応する証拠の有無
そして、その事実に対応する証拠があるかどうかで紐付けてきます。
「この事実には、こういう証拠がある」ということです。
・依頼者の手元にある書類を収集する。
依頼者側に弁護士がつくと、「書類を見せてください」と言っても見せてくれません。
ですから、初動の段階で、自分のところにないけれども依頼者の側にあの書類があるという時は、「その書類を見てくれませんか?」ということで集めておく、ということです。
・担当した職員や所属税理士の供述書に署名押印を早い段階で得ておく。
これは、損害賠償に至る前であっても得ておいたほうがいいです。
というのは、税理士の損害賠償の時効は長いからです。
債務不履行の場合、債権法改正で5年、10年となりますが、長い方は10年となっています。
何年後に損害賠償を請求されるかわからないので、その時に職員や所属税理士が事務所にいるかどうかわかりません。
そうなると、辞めてしまった人は滅多に証人として出てはくれないので、損害賠償の問題が浮上する前であっても、担当した職員、所属税理士には、「〇〇ということがありました」と書いてもらって、署名押印を得ておくということが大切だと思います。
(2)更正の請求
損害賠償では、被害者の損害が少なくなれば損害賠償額も少なくなります。
そこで、更正の請求をして被害者の損害を少なくしよう、ということになります。
判例を見てみます。
「東京高裁平成15年2月27日判決」
税理士は、顧問契約の依頼者が、過去の過大な所得申告をしていたことを発見した場合には、その依頼者に対し、減額更正の請求(いわゆる嘆願)をすべきことを助言・指導する法的義務があった。
東京高裁では、当時の更正の嘆願をすべきことを助言・指導するのは税理士の義務だといっています。
(3)法律行為の錯誤
次に、可能性はとても少ないのですが、法律行為の錯誤を検討します。
「最高裁平成元年9月14日判決」
財産分与に伴う課税関係の点を重視していたのみならず、他の特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していた。
ということで、差し戻しをして、東京高裁平成3年3月14日では、財産分与契約の錯誤無効を認めています。
「高松高裁平成18年2月23日判決(TAINS Z256-10528)」
納税義務者は、納税義務の発生の原因となる私法上の法律行為を行った場合、当該法律行為の際に予定していなかった納税義務が生じたり、当該法律行為の際に予定していたものよりも重い納税義務が生じることが判明した結果、この課税負担の錯誤が当該法律行為の要素の錯誤に当たるとして、当該法律行為が無効であることを法定申告期間を経過した時点で主張することはできないと解するのが相当である。
「錯誤は、法定申告期限内に主張してください」というのが、この判例になります。
(4)申告書の記載内容の錯誤
次に、申告書の記載内容の錯誤に関する判例を見ていきます。
「最高裁昭和39年10月22日判決」
所得税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ許されない。
判例からも、こうした錯誤は滅多に認められないのですが、一応、わらにもすがる思いで検討するということになるかと思います。
(5)契約書の確認
契約書を作成することを奨励していますが、契約書もしっかり確認するということです。
・業務範囲
主に業務範囲を確認。
その業務は自分がやるべきことだったのかどうか等。
・責任分担
わざわざ依頼者の仕分け書、原資書類まで確認する義務があったのかどうか等の確認。
・損害賠償額の上限規定
「損害賠償を払うが、上限は顧問料の範囲内」等、損害賠償額の上限規定を確認。
契約を壁にして、自分を守ってくれる情報があるかどうかをチェックするということです。
(6)弁護士相談
先述した、①時系列表と②証拠メモ、③契約書を持って相談、ということになります。
次が重要なのですが、④税法に関する理解を助けるメモ、もできれば作っていただきたいと思います。
弁護士は、税法等の勉強をしてない先生のほうが多いと思いますので、税法を知っている前提で臨まないようにしていただきたいということです。
むしろ苦手としている先生のほうが多いので、相談する前には、「今回はどういう税法のどういう条文で」、「どういう通達がきて」、「本来は、こうしなければならないのに、こういうことをしてしまった」といったことを、できれば事前に送っておいていただけると、弁護士が前もって勉強しておくことができるので、これをお勧めしたいと思います。
(7)税賠保険への連絡
税賠保険へ加入されている方は、税賠保険会社に忘れずに連絡をしていただきたいということです。
税賠保険会社に事情説明で書面を出して、「これは対象外です」と言われることがありますが、それは最終決定ではありません。
結局、認められかどうかは、事実認定の問題もあるので、「これは認められません」と言われても、すぐに諦めないで、「本当にそうなのか」、「保険会社が誤解しているのではないか」、「事実関係の説明の仕方がまずかったのではないか」といった見直しをして、本当に対象外なのかどうかのチェックし直すことをお勧めしたいと思います。