人材の募集から書類選考・面接を経て、内定を出した社員が入社するまでには多くの時間とコストを費やすことになります。

せっかくかけた時間とコストは無駄にしたくはないですし、会社の持続的成長のためにも入社した社員が定着し、スキルや経験を生かしてなるべく早い段階から会社に貢献してくれることを社長は期待しているはずです。

しかし、そのような期待を受けて入社したはずの社員が短期間で体調を崩して休みがちになったり、あるいは休職してしまったりする例が後を絶ちません。

入社間もない場合であっても長時間労働が続き、結果として心身の不調に陥ってしまった場合には、業務との因果関係が認められ労災認定される可能性もありますし、パワハラやセクハラにより精神障害を発症してしまうこともありますが、これは通常であれば、いずれの場合も発症の原因が会社側にあることになります。

しかし、中には残業がほとんどない会社での勤務で、パワハラやセクハラも全くない職場であるにもかかわらず、入社してすぐ体調不良を訴えて、遅刻や早退、欠勤を繰り返す社員がいるのも事実です。

また、素晴らしいスキルや経験を持っているから、「多少のことは目をつぶってでも採用」をしたために、かえって後でおおごとになった会社の例もあります。

このように入社間もなくして欠勤や休職してしまうと、いくらスキルや経験があってもそれを生かすことが難しくなりますし、重要な仕事や期限のある仕事を任せるにはリスクが伴います。

もしかしたら大切な取引先を失ってしまうかもしれないのです。

あるメーカーで技術職を採用したケース

会社にとっては非常に貴重といえるスキルを有していた30代Dさんからの応募があり、すぐ面接となりました。

職務経歴書にも記載があったとおり、Dさんは確かに会社の求めているスキルを持っていることは確認できたのですが、一つ大きな問題がありました。

元々、体調面に問題を抱えている方だったのです。採用を決定する前に実施した健康診断でも、医師の所見として「業務を行ううえで問題あり」とされました。

結果

Dさんの健康診断の結果を踏まえ、人事担当者は「とてもじゃないがこの会社での仕事はできそうにもない……」と判断しました。

同じ状況下に置かれれば、99%の会社は同様の判断を下すことでしょう。

ところが、現場の担当役員の強い要望と意向もあり、リスクを承知で正社員として採用するに至りました。

早速、システムの開発プロジェクトに参加させ、担当役員も「どんな成果を上げてくれるだろう」と大いに期待していたことかと思いますが、その期待はすぐに裏切られることとなりました。

遅刻や早退、欠勤するようになり、なかなか出社してこないため自宅へ電話したところ、「体調不良で休ませてください……」という返事でした。

このような状況がしばらく続き、出社できるかどうかの確認をするため、毎朝始業前に自宅に電話することが会社の日課となる始末です。

数か月が経過し、プロジェクトは一向に進む気配もなく、さすがに社長の堪忍袋の緒が切れたため解雇を検討しましたが、それでも「保持しているスキルを手放してしまうのは惜しい」という担当役員からの懇願もあり、Dさんに説明し、同意を得たうえで正社員から契約社員へ雇用形態を変更することにしたのです。でも雇用形態が変わったからといって、本人の体調が良くなるわけでもありません。

結局この社員は退職していきました。

健康診断について少し補足すると、労働安全衛生規則第43条により、常時使用する労働者を雇い入れた際には、医師による健康診断を実施しなければなりません。

厚生労働省の通知によれば、雇い入れ時の健康診断は「適正配置、入職後の健康管理に役立てるために実施」するものであり、「応募者の採否を決定するために実施するものではない」としていますが、実務上では入社前(内定を出す前)に実施するべきです。

もし、健康診断の結果、医師が「この疾病により仕事をすることは極めて困難である」というような判断を行った場合には、客観的に見て合理的であると認められ、採用内定を既に出していたとしても取り消しをすることは是認されるでしょう。

ただし、疾病が見つかっても労務提供に支障がないと認められる場合、内定取り消しは無効とされる可能性が極めて高いので留意しなければなりません。

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