【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/4/19
法人税法上、被合併法人から引き継ぐ繰越欠損金と特定引継資産に対する制限(法法57③、62の7①、②一)だけでなく、合併法人が合併前に保有していた繰越欠損金と特定保有資産に対する制限(法法57④、62の7①、②二)も課されています。
これは、逆さ合併による繰越欠損金や資産の含み損の不当な利用を防止するためであるといわれています(菅原英雄「企業再編税制を巡る留意点(その1)」租税研究642号34頁(平成15年)など)。
しかしながら、合併法人の売上金額、従業者及び資本金の額の全てが被合併法人の5倍以上であり、かつ、合併法人の特定役員の全てが残る場合であっても、みなし共同事業要件(法令112⑩)を満たさないのであれば、繰越欠損金の使用制限及び特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入が課されてしまいます。
そうなると、例えば、従業員1,000人の会社が従業員10人の会社を吸収合併した場合には、従業員10人の会社から引き継ぐ繰越欠損金や特定資産に対して制限されるのはやむを得ないとしても、従業員1,000人の会社の繰越欠損金や特定資産に対しても制限が課されることになり、これは過剰な制限であるように思えます。
さらに、実務上、簡易合併(会社法796)により株主総会を省略することが多いため、税理士に相談しないで合併を進めた結果、確定申告書を作成している段階で、繰越欠損金の使用制限、特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入が課されることが発覚したという事案も存在します。
このような批判に対しては、時価純資産価額が簿価純資産価額を超えている場合に、一定の緩和措置が設けられていることから(法令113④、123の9⑦)、現行法上、ある程度は対応しようとしていると推測されます。
さらに、本稿校了段階では、被買収会社である被合併法人の時価純資産価額だけでなく、買収会社である合併法人の時価純資産価額の算定においても、のれんを含めることにより時価純資産価額を引き上げることができるという解釈が通説とされており、例えば、上場会社が合併法人である場合には、市場によって評価された時価総額と個別資産及び負債の時価純資産価額との差額をのれんとしたうえで、時価純資産超過額の計算をすることができると解されています(稲見誠一・三富樹子「適格合併における特定資産譲渡等損失の損金算入制限(時価純資産超過額がある場合)」国税速報6075号34-35頁(平成21年))。
ただし、時価純資産価額の算定などにおいて、納税者に過剰な負担を強いていることから、今後の税制改正により、さらなる緩和が行われることが期待されます。