【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/4/19
完全支配関係内又は支配関係内で行われた組織再編成については、共同事業を行うための適格組織再編成に比べて要件が緩和されています。
そして、完全支配関係内又は支配関係内で行われた組織再編成に該当するためには、原則として、組織再編成の直前に完全支配関係又は支配関係があるだけでなく、組織再編成後も当該完全支配関係又は支配関係が継続する必要があります(法令4の3)。
なお、このような完全支配関係又は支配関係が継続することが見込まれているという要件につき、「完全支配関係継続要件」「支配関係継続要件」と表記されることがあります。
このように、組織再編成後も完全支配関係又は支配関係が継続することが要求されているのは、税制適格要件を満たすためには、移転資産に対する支配が継続している必要があるのに対し、完全支配関係及び支配関係が継続しないのであれば、移転資産に対する支配が継続しているとは認められないからだと考えられます。
しかしながら、例えば、適格分社型分割を行った場合には、分割法人の保有する資産が帳簿価額で分割承継法人に移転するため、移転した資産に含み損がある場合には、分割法人が取得した分割承継法人株式と分割承継法人が取得した資産にそれぞれ含み損が生じてしまいます。
このような二重の損失計上を防止するために、完全支配関係継続要件及び支配関係継続要件が課されているという誤解が広まっているという話を聞いたことがあります。
これは明らかに誤りです。
なぜなら、『令和2年度税制改正の解説』939頁では、
「組織再編税制の適格要件は、移転資産に対する支配の継続を要件化したものであり、損失の2回控除の防止が目的ではありませんが、事業の継続見込みを適格要件とすることによって、結果的に損失の2回控除が起きる蓋然性が低くなっていると考えられます。」
と解説されているからです。
すなわち、二重の損失計上を軽減できる効果は期待できるものの、二重の損失計上を防ぐために完全支配関係継続要件及び支配関係継続要件を課したわけではないことがわかります。
租税法の制度趣旨を理解するためには、目的と効果を混在させないことが必要になります。
もちろん、損失の二重計上が行われていたら、包括的租税回避防止規定(法法132の2)を適用したいと税務調査官が考える可能性は十分に考えられますが、損失の二重計上が行われていたという理由だけで、制度趣旨に反すると主張すべきではないため、包括的租税回避防止規定を適用するためには、補強的な理論が必要になってくると思われます。