【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/4/19
平成29年度税制改正により、分割型分割を行った場合における完全支配関係継続要件又は支配関係継続要件の判定上、分割承継法人に対する完全支配関係又は支配関係の継続は要求されるものの、分割法人に対する完全支配関係又は支配関係の継続は要求されないことになりました(法令4の3⑥⑦)。
このような制度になった理由として、
「移転資産に対する支配の継続という観点では分割型分割に係る分割法人との間の関係の継続を求める理由に乏しいことを踏まえた改正であり、これにより、完全子法人から完全親法人への資産の移転においてその後の関係の継続が不要となる点で適格分割型分割と適格現物分配とが同様となります(「平成29年度税制改正の解説」334頁)。」
と解説されています。
このような税制適格要件の改正により、実務上、被買収会社の保有するM&A対象外の資産を帳簿価額で切り離した後に被買収会社株式を譲渡するという手法が採用されるようになりました。
このようなニーズが高い事案は、被買収会社の株主が個人であり、かつ、被買収会社が保有する資産に多額の含み益がある事案であるといわれています。
これは、被買収会社の株主が個人である場合には、配当所得ではなく、譲渡所得を認識できる株式譲渡方式が有利になるケースが多いからです。
そして、典型的な事案として、被買収会社が飲食業などの本業を営んでおり、かつ、保有している不動産の時価が極めて高い事案が挙げられます。
このような場合には適格分割型分割により本業を切り離したうえで、不動産だけになった被買収会社を譲渡するという不動産M&Aという手法が上記の節税目的に合致するといえます。
ただし、TPR事件の影響もあり、事業単位の移転を伴わない適格分割型分割を行った場合には、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用され、非適格分割型分割であると認定されるリスクについて懸念が生じています。
具体的には、本業を切り離すのではなく、自宅、金融資産、保険商品といった個人的な資産を切り離す場合には、包括的租税回避防止規定が適用されることにより、分割法人における含み益の実現や株主におけるみなし配当課税のリスクがあるのではないかという不安を述べる同業者も少なくありません。
この点については、TPR事件は適格合併により繰越欠損金を引き継いだ事件であることから、それ以外の組織再編成には射程が及ばないとする見解もありますし、そもそも平成22年度税制改正前の事件であることから平成22年度税制改正が施行された後の組織再編成には射程が及ばないとする見解もあります。
そのため、今後の税制改正や新しい判例の公表により、上記の論点が明らかになることが期待されます。