【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/9/12

実務上、親会社を株式交換完全親法人とし、当該親会社が発行済株式の全部を間接に保有する孫会社を株式交換完全子法人とする株式交換を検討することがあります。

子会社が孫会社株式を適格現物分配により親会社に移転すれば、孫会社を子会社にすることができますが、適格現物分配に伴って、親会社において繰越欠損金の使用制限(法法 57④)、特定資産譲渡等損失額の損金不算入(法法 62 の7)が課される場合には、その代替的な手法が必要になるからです。

しかしながら、無対価組織再編成には落し穴があり、親会社と孫会社との間の無対価株式交換はその一つの例として挙げられます

ここでは、その理由について解説を行います。

時価評価課税の検討

親会社を株式交換完全親法人とし、当該親会社が発行済株式の全部を間接に保有する孫会社を株式交換完全子法人とする株式交換を行った場合には、株式交換に伴って株式交換完全親法人株式を交付したとすれば、子会社が株式交換完全親法人株式(親会社株式)を取得することから、対価の交付を省略したと認められません。

そのため、当該無対価株式交換は非適格株式交換として取り扱われます(法令4の3⑱参照)。

ただし、株式交換の直前に株式交換完全子法人(孫会社)と株式交換完全親法人(親会社)との間に完全支配関係があるので、非適格株式交換に該当したとしても、時価評価課税の対象にはなりません(法法 62 の9①)。

株式交換完全親法人(親会社)の受入処理

法人税法施行令 119 条 1 項 10 号において、

「適格株式交換等に該当しない前号に規定する株式交換(第四条の三第十八項第一号(適格組織再編成における株式の保有関係等)に規定する無対価株式交換にあつては、同項第二号に規定する株主均等割合保有関係があるものに限る。)」

と規定されていることから、対価の交付を省略したと認められない場合には、同号の適用ができないと解されます。

すなわち、同項 27 号が適用されるため、株式交換完全子法人株式の取得価額は時価になります。

さらに、法人税法施行令 8 条 1 項 10 号において、「株式交換(適格株式交換等に該当しない第四条の三第十八項第一号に規定する無対価株式交換で同項第二号に規定する株主均等割合保有関係がないものを除く。)」と規定されているので、資本金等の額を増加させることもできません

そのため、株式交換完全子法人株式の時価に相当する受贈益が生じると解さざるを得ませんが、無償で株式交換完全子法人株式を取得したのだからそのように解することに不都合はないと思われます。

株式交換完全子法人の株主(子会社)の税務処理

株式交換完全子法人の株主(子会社)では、対価の交付を省略したと認められないことから、株式交換完全子法人株式の帳簿価額を株式交換完全親法人株式の取得価額に付け替えることはできません(法法 61 の2⑨参照)。

そのため、株式交換完全子法人株式の時価に相当する金額を寄附金としたうえで、株式交換完全子法人株式を時価で譲渡したものとして取り扱われます(法法 61 の2①)。

ただし、完全支配関係のある内国法人との間の譲渡ですので、株式交換完全子法人株式の帳簿価額が 10 百万円以上である場合には、譲渡利益額又は譲渡損失額を繰り延べる必要があります(法法 61 の 11①、法令 122 の 12① 三)。

株式交換完全子法人(孫会社)が自己株式を保有していた場合

この場合には、株式交換完全子法人からすれば自己株式に対して交付されるべき株式交換完全親法人株式が交付されなかったことから、自己株式を無償で譲渡したことになります

そして、法人税法施行令 8 条 1 項 1 号では、払い込まれた金銭の額が資本金等の額になると規定されており、かつ、同号ヌにおいて、株主に対して新たに金銭の払込みをさせないで自己株式の処分をした場合には資本金等の額が増加しないことが明記されています。

そのため、株式交換完全子法人(孫会社)からすれば、寄附金が発生せず、かつ、資本金等の額も増加しないことになります。

ここで問題になるのが、株式交換完全親法人(親会社)の取扱いになります。

たしかに、法人による完全支配関係があることから受贈益の益金不算入が適用されますが、受贈益の益金不算入が適用される金額は完全支配関係のある他の内国法人において寄附金として認識された金額に限定されています(法法 25 の2①)。

すなわち、株式交換完全子法人株式の時価が 10 億円であり、そのうち 10%を自己株式として株式交換完全子法人が保有していた場合には、9 億円については株式交換完全子法人の株主(子会社)において寄附金が生じていることから、株式交換完全親法人において受贈益の益金不算入が適用されるものの、1 億円については寄附金が生じていないことから、受贈益の益金不算入が適用されないため、株式交換完全親法人の課税所得が増加してしまいます。

このように、対価の交付を省略したと認められない無対価組織再編成を行った場合には、思わぬ課税が生じることがあります。

無対価組織再編成を行う場合には、常に条文を確認することで慎重な対応を心掛ける必要があります。

補足
(無対価の適格株式交換における自己株式の取扱い)

無対価の適格株式交換を行った場合には、株式交換完全親法人において、法人税法施行令 119 条 10 号、8 条 1 項 10 号がそれぞれ適用された結果、株式交換完全子法人株式の取得価額と増加する資本金等の額が一致するため、受贈益は生じません

そして、株式交換完全子法人でも、同令 8 条 1 項1号ヌにより資本金等の額が増加せず、かつ、寄附金も生じません。

そのため、上記のような問題は、無対価の非適格株式交換を行った場合において、株式交換完全子法人が自己株式を保有していたときの特殊な事例であるといえます。

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