【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/6/12

アフターコロナに伴って、不採算の子会社を対象とする M&A が増えています。

不採算の子会社を M&A の対象にする場合には、①当該不採算の子会社の債務超過を解消するとともに、②親会社や他のグループ会社が保有している資産のうち、当該不採算の子会社の事業に関連するものを M&A を行う前に当該不採算の子会社に移転する必要があります。

本記事では、債務超過が30億円の子会社に対して、資産20億円及びのれん10億円を親会社又は兄弟会社から非適格分社型分割又は非適格分割型分割により移転した後に、親会社が子会社株式を譲渡した場合の取扱いについて解説を行います。

増加する資本金等の額の計算

非適格分社型分割を行った場合には、以下の金額を基礎に増加する資本金等の額を計算します(法令8①七)。

イ.事業の移転を伴うもの(分割対価資産を交付するものに限ります。)
分社型分割により分割法人に交付した分割対価資産の価額
ロ.事業の移転を伴わないもの(分割対価資産を交付するものに限ります。)
移転資産の価額から移転負債の価額を減算した金額
ハ.無対価分割で分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有する関係があるもの
移転資産(営業権は独立取引営業権に限ります。)の価額(資産調整勘定の金額を含みます。)
から当該移転負債の価額(負債調整勘定の金額を含みます。)を控除した金額

※対価の交付を省略したと認められない無対価分割で分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の一部を保有している場合には、分割対価資産の価額を0円であるものとして、上記イにより計算するので、増加する資本金等の額は0円になります。これに対し、対価の交付を省略したと認められない無対価分割で分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資を保有していない場合には、分割型分割として取り扱われたうえで(法法 2 十二の九ロ)、増加する資本金等の額が0円になります(法令8①六)。

※本記事では、自己が有する自己の株式がある場合には、発行済株式又は出資から除くものとして解説しています。

資産調整勘定の計算

非適格分社型分割を行った場合には、分割法人の分割の直前において行う事業及び当該事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が当該分割により分割承継法人に移転するものに限り、資産調整勘定を認識することができます(法法 62 の8①、法令 123 の10①)。

そして、分割対価資産を交付する非適格分社型分割を行った場合には、分割承継法人が交付した分割対価資産の時価を基礎に資産調整勘定を計算しますが、寄附金又は受贈益がある場合には、当該寄附金又は受贈益に相当する金額を減算又は加算する必要があります(法法 62 の 8①)。

これに対し、分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有する場合における無対価分割では、資産評定により資産調整勘定の金額を計算します(法令 123 の10⑯ 一)。

譲渡損益の計算

法人税法62条第1項では、分割対価資産の時価を基礎に譲渡損益の計算をすることが明らかにされていますが、寄附金又は受贈益がある場合には、あるべき分割対価資産の時価を基礎に譲渡損益の計算を行う必要があります。

さらに、分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有する場合における無対価分割では、移転資産の価額(資産調整勘定の金額を含みます。)から移転負債の価額(負債調整勘定の金額を含みます。)を控除した金額により分割承継法人株式の取得価額を計算するので(法令 119 の 3⑳ 一、119 の 4①)、当該分割承継法人株式の取得価額を基礎に譲渡損益の計算を行います。

分割承継法人株式を交付する非適格分社型分割

その結果、親会社から子会社(債務超過30億円)に対して、非適格分社型分割により資産20億円及びのれん10億円を移転した場合において、分割対価資産である分割承継法人株式の時価が0円であるときは、分割承継法人において増加する資本金等の額が0円になるので、分割法人及び分割承継法人における仕訳が以下のようになります。

なお、法人税基本通達 9-4-1 に該当することを前提にしています。

【分割法人の仕訳】

(分割承継法人株式)0 億円 (資     産)20 億円
(寄  附  金)30 億円 (譲  渡  益)10 億円

【分割承継法人の仕訳】

(資    産)20 億円 (資本金等の額)0 億円
(資産調整勘定)10 億円 (受   贈   益)30 億円

無対価の分社型分割

これに対し、分割法人が分割承継法人の発行済株式又は出資の全部を保有する場合における無対価分割では、分割承継法人において増加する資本金等の額が 30 億円になり、分割法人における分割承継法人株式の取得価額が 30 億円になるので、分割法人及び分割承継法人における仕訳が以下のようになります。

【分割法人の仕訳】

(分割承継法人株式)30 億円 (資    産)20 億円
( 譲  渡  益 )10 億円

【分割承継法人の仕訳】

(資    産)20 億円 (資本金等の額)30 億円
(資産調整勘定)10 億円

このように、同じ非適格分社型分割を行った場合であっても、分割承継法人株式を交付するか否かにより、全く異なる取扱いになります。

兄弟会社から分割型分割を行った場合

兄弟会社から分割承継法人株式を交付する非適格分割型分割を行った場合には、分割法人が交付を受けた分割承継法人株式(0 円)を株主に分配するだけなので、基本的に上記の取扱いと変わりません。

無対価分割を行った場合には、法人税法 62 条に規定されている特定分割型分割が、対価の交付を省略したと認められる事案(株主構成が同一である事案〔法令 122 の 13、4の3⑥二イ(2)〕)に限定されていることから、それ以外の事案については、分割対価資産が 0 円であるものとして譲渡損益の計算を行います。

これに対し、対価の交付を省略したと認められる場合には、交付を受けたとみなされる分割承継法人株式の取得価額(法法 24③、法令 23⑦)を基礎に譲渡損益の計算を行うため(法法 62①)、分割法人及び分割承継法人における仕訳は以下のようになり、かつ、分割法人の株主においてみなし配当が生じることになります。

【分割法人の仕訳】

(分割承継法人株式)30 億円 (資      産)20 億円
(譲   渡   益)10 億円
(資本金等の額)××億円 (分割承継法人株式)30 億円
(利益積立金額)××億円

【分割承継法人の仕訳】

(資    産)20 億円 (資本金等の額)30 億円
(資産調整勘定)10 億円

まとめ

このように、分割承継法人が債務超過である場合には、分割承継法人株式を交付するのか、無対価分割を行うのかで、その取扱いが大きく異なります。

とりわけ、上記の事案では、法人税基本通達 9-4-1 の要件を満たすことで、受贈益の益金不算入を適用することができなくなる可能性があるため(法基通 4-2-5)、資本金等の額として取扱うことができる無対価分割のほうが有利になる事案も想定されます。

おすすめの記事