税理士の先生より「異なる階で事務所を開設すると、複数事務所か」について、
税理士を守る会でご質問をいただきましたのでご紹介いたします。

質問

税理士事務所が存するビルに、異なる階に新たに部屋を借り、増床しようと考えています。その部屋には税理士事務所の所属税理士および従業員が常駐することになります。

この場合、複数事務所として懲戒の対象になるのでしょうか。

回答

税理士法40条 3 項は、「税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない。」と規定しています。

そして、税理士法基本通達40-1は、「法第40条に規定する「事務所」とは、継続的に税理士業務を執行する場所をいい、継続的に税理士業務を執行する場所であるかどうかは、外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実によって判定するものとする。」と規定しています。

判断基準の例示として、

⑴ 外部に対する表示の有無
⑵ 設備の状況
⑶ 使用人の有無

が挙げられていますが、これらに限定されません。

この規定の趣旨は、

① 税理士の業務活動の本拠としてこれを1箇所に限定することが法律関係を明確にする上で便宜であること
② 個人の監督能力を超えて業務の範囲を拡大することを事務所の面から規制し、これにより税理士以外の者が税理士業務を営むことを防止すること

とされています(『新税理士法五訂版』日本税理士会連合会編、170頁)。

そして、この規定に違反した場合には懲戒処分の対象となりますので、この規定に違反したかどうかは、最終的には懲戒処分を争う処分取消訴訟の中で、裁判所により判断されることになります。

そこで、裁判所の判断傾向ですが、このような「1事務所」と言えるかどうかについては、「社会通念」に従って判断する、というのが裁判所の判断傾向です。

とするならば、同一のビルの複数階にまたがる事務所であったとしても、たとえば、
① ビルの玄関表札に「1階○○税理士法人(受付)2階○○税理士法人」などと、表示上一体の税理士法人であると認識できる
② 代表番号が1つであり、内線でつながっている
③ 名刺、ホームページ、封筒などでも、「1階、2階」などと併記されている
④ 新たに設けた階のみでは税理士業務を独立して行うことができない(執務室のみで会議室がない、あるいは会議室のみで執務室がない)

などの場合には、社会通念上、「1事務所」として支店登記は不要と考えます。

なお、1階、2階のように連階の場合には1事務所と判断されやすいですが、1階と9階など階が離れている場合には、「社員が常駐せず会議室のみとする」など、他の一体性の要素を強めておく必要があるかと思います。

なお、税理士が自宅で仕事をすることがあると思いますが、外部に税理士事務所として表示されておらず、設備も使用人もいないのですから、当然、社会通念上、自宅は事務所にはならない、という判断になると思われます。

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