取得条項付株式を取得するための「一定の事由」(会社法第107条第2項第3号柱書)の定め方については、「一定の事由」そのものを定める方法(同号イ)のほか、「会社が別に定める日が到来すること」をもって「一定の事由」とする方法(同号ロ)も認められています。
また、例えば、「株主が死亡した場合に、当会社の取締役会が別に定める日の到来したとき」というように、二重の条件を設けて取得条項を定めることも可能と考えられます(平成18年4月26日民商第1110号依命通知参照)。
このような取得条項付株式を実際に取得する場合には、当該株式の株主等に対して通知を行う必要があると考えられます(会社法第168条第2項等)。
そこで、上記の例のように、二重の条件を付して取得条項付株式を取得する場合、具体的には、株主に対してどのような内容の通知を行う必要があるのでしょうか。
まず、前提として、上記の例は、会社法第107条第2項第3号イとロを組み合わせたものと整理しています。
すなわち、前段の「株主が死亡した場合」が同号イに該当し、後段の「当会社の取締役会が別に定める日の到来したとき」が同号ロに該当するという理解です。
このように整理した場合、前段については、会社法第170条第3項本文に定める①「当該事由が生じた旨」を、当該事由が発生した後、遅滞なく株主に通知する必要があるように思われます。
また、後段については、会社法第168条第2項に基づき、取締役会決議によって別に定める日を決定した後、当該日の2週間前までに、②「当該日」を株主に通知する必要があると考えます。
したがって、結論としては、株主に対して①及び②の両方の通知を行う必要があるように思われます。
もっとも、会社法第170条第3項ただし書の規定を確認すると、会社法第168条第2項に基づく通知を行った場合には、同項本文に定める会社法第170条第3項の通知は不要とも考えられます。
おそらく、その趣旨は、同項本文の通知が必要となるのは、会社法第107条第2項第3号イに定める「一定の事由」が発生したことによって、株式取得の効力が自動的に生じるためであり、その効力の発生は株主の意思を介さずに生じることから、事後的であっても、株主に対してその事実を知らせる必要があるということだと思われます。
これに対して、会社法第107条第2項第3号ロの定めがあることを前提として、取締役会で取得日を別に定め、会社法第168条第2項に基づき、その日の2週間前までに株主へ通知した場合には、当該通知によって株主は取得の効力が発生する日を事前に把握できます。そのため、会社法第170条第3項に基づく通知は不要とする考え方なのではないかと思われます。
しかし、このような考え方を前提としても、上記の例において、会社法第168条第2項に基づく通知だけで足りると考えてよいのかについては、やや疑問が残ります。
その理由は、上記の例では、単に「会社が別に定める日」が到来することだけでなく、その前提として「一定の事由」が発生していることも取得の条件となっているためです。
一方、会社法第168条第2項に基づく通知の内容は、基本的に「会社が別に定める日」に関するものであり、前提となる「一定の事由」が発生した旨については通知されないことになります。
つまり、株主は、取得条項に定められた二重の条件のうち、後段の条件に関する通知だけを受け取ることになります。その結果、取得の前提となる前段の「一定の事由」が実際に発生したという事実、少なくとも会社側が当該事由の発生を認識しているという事実を知ることができません。この点は、手続上問題があるように思われます。
例えば、会社が別に定める日の到来そのものを「一定の事由」とするシンプルな事例であれば、このような問題は生じないと考えられます。
しかし、上記の例では、会社が別に取得日を定めることができるのは、あくまでも「一定の事由」が発生していることが前提となっています。そのため、「一定の事由」が発生した旨の通知がなければ、株主は、その前提条件が充足されているかどうかを判断する機会を得られないことになります。
この点は、前提となる「一定の事由」として定められている事由が1つだけであれば、それほど大きな問題にはならないかもしれません。
しかし、「一定の事由」として複数の事由が定められているケースでは、株主は、どの事由が発生したことによって前提条件が充足されたのか、少なくとも会社側がどの事由の発生によって条件が充足されたと認識しているのかを判断することができません。
以上を踏まえると、最終的な結論として、上記の例のように二重の条件を付している場合には、会社法第168条第2項に基づく通知と、同法第170条第3項本文に基づく通知の両方が必要になると考えます。
ただし、実際の通知方法としては、会社が別に定める取得日の2週間前までに、前段に定める「一定の事由が発生した旨」と、後段に定める「取締役会が別に定める日」の2点を併せて株主に通知する方法が妥当ではないかと考えます。



