国税不服審判所平成30年10月3日裁決
契約書の効力が否定された事例です。
事案
請求人が所有し、駐車場として賃貸していた土地について、請求人とその子らとの間において締結した使用貸借契約及び本件各土地上のアスファルト舗装等の贈与契約がありました。
請求人は、上記契約書により、本件各土地の賃貸人としての地位が請求人からその子らにそれぞれ移転したから、本件各駐車場に係る所得は請求人の子らに帰属する旨主張して更正の請求をしたが、更正する理由がない旨の通知処分があったことから、請求をした。
解説
使用貸借契約書や贈与契約書には、請求人の署名・押印がありました。
したがって、法律上、二段の推定が働きます。
(一段目の推定)
私文書に本人の印鑑による押印があるときは、本人の意思に基づき押印されたものであると事実上推定されます(最高裁判決)
(二段目の推定)、
私文書に本人の押印があるときは、「押印が本人の意思に基づいているとき」と解釈されて、文書の真正が法律上推定されます。
( 民事訴訟法第228条第4項 )
ところが、裁決では、この推定が覆されたのです。
裁決
本件各使用貸借契約及び本件各贈与契約については、本件各土地の所有権を請求人に留保したまま、その使用収益権原のみを相応の対価を発生させることなく請求人の子らに移転する方法として採られたものと認められる。
請求人は、原処分調査において、本件各契約書については一貫して知らない旨申述しており、本件各契約書の作成事実を認識していなかったと認められる。
本件各土地を巡る一連の取引は、請求人の子から相続対策の相談を受けていた
税理士法人が企図し、本件各契約書の書式も当該税理士法人が作成したものと認められること等からすると、請求人は、本件各契約書の内容を確認することがなかったため、その内容を全く認識していなかった可能性が高い。
そうすると、本件各契約書に請求人の意思に基づく署名・押印があるとしても、本件各契約書の内容自体が請求人の意思に基づくものとの推定は働かない。
本件各使用貸借契約及び本件各贈与契約が請求人の意思に基づいて成立したものとは認められない。
したがって、本件各駐車場に係る所得は、その貸主名義にかかわらず、いずれも本件各土地の所有者である請求人に帰属するというべきである。
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処分取消訴訟になったかどうかは明らかではありませんが、処分が取り消される可能性は十分あるのではないか、と思います。
なぜなら、
・税理士を証人尋問すれば、説明の状況等を証言するはず。
・請求者本人も証人尋問前に練習するので、「調査時には忘れていました」などと証言するはず。
(場合によっては記憶力が減退していることの証拠として「長谷川式スケール」等の検査結果を提出する)
・自分の収入が突然途切れており、それを認識していたはず。
・また、確定申告をしていたので、収入が激減しているのを認識していたはず。
などが想定されるからです。
そうであるにしても、税理士が主導して行った所得分散対策が、仮に説明をしており、本人の署名押印があったとしても、国税不服審判所の段階で、覆されてしまうことがある、ということです。
どうすればいいんだ、ということですがとにかく説明助言については証拠化を励行することが望まれます。
今回は、以上です。
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近年増加している顧問先から税理士への損害賠償請求リスクを抑えるには、日常業務だけでなく、顧問契約の締結時と終了時に対策が必要です。
そのとき、欠かせないのが
・契約開始時の税理士顧問契約書
・終了時の税務顧問契約解消に関する合意書
などの書式です。
書式なら何でもいいわけではありません。
契約開始時の税理士顧問契約書であれば、次の条項などを入れておく必要があります。
1)業務の範囲を限定する
⇒ 契約書にない業務で賠償請求を受けないようにする
2)税理士の義務を限定する
⇒ すべての確認作業を自分の義務にしない
3)損害賠償額の上限を規定する
⇒ 規程の仕方にも注意が必要です。
4)税理士からいつでも中途解約できる条項を入れる
さらに、
法人か個人か
会計帳簿を作成するかしないか
年一かどうか
などによっても契約書に記載する文言が変わってきます。
以下のような種類に分かれてきます。
・法人との受任契約書式
税理士顧問契約書(会計帳簿作成含む)
税理士顧問契約書(会計帳簿作成せず)
税理士業務契約書(年一業務会計帳簿作成含む)
税理士業務契約書(年一業務会計帳簿作成せず)
・個人事業主との所得税業務受任契約書式
税理士顧問契約書(会計帳簿作成含む)
税理士顧問契約書(会計帳簿作成含せず)
年一委任契約書(会計帳簿作成含む)
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