今回は、「税理士は税務処理に際し、どこまで調査しなければ賠償責任を負うのか?」というテーマについて考えてみたいと思います。

内容としては、私が執筆した書籍『税務のわかる弁護士が教える 税理士損害賠償請求の防ぎ方』の一部について解説していきます。

「不適正処理是正義務」というものがあります。

東京地裁平成24年12月27日判決(判例タイムズ1392号163頁)を見てみます。

(事案)
税理士が、消費税の税務書類の作成・税務代理業務を受任した。
依頼者は、自宅の一部を会社に賃貸し、その賃料を受領していたが、税理士から給与以外の収入があるか質問された際に、「ない」と 回答したので、税理士はそれを前提として、消費税課税事業者選択届けを提出しなかった。
ところが、実際には収入があった、ということで、税理士が損害賠償請求を受けた。

依頼者の回答に従って税務申告書を作成し、申告したのに税賠になるのか、ということなのですが、税理士が敗訴しています。

判決は次のとおりです。

「税理士は委任者の説明に基づき、その指示に従って申告書等を作成する場合にも、委任者の説明及び指示のみに基づいて事務処理を行えば足りるというものではなく、税務の専門家としての観点から、委任者の説明内容を確認し、それらに不適切な点があって、これに依拠すると適切な税務申告がされないおそれがあるときには、不適切な点を指摘するなどして、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を負うと解される。」

したがって、依頼者が言ったことをそのまま鵜呑みにしていいというわけではなく、何か不適切な点があるときは、それ是正しないといけない、不適正処理を是正する義務があるということです。

では、本件では、どのような事情があったのか見てみましょう。

「原告は、被告(税理士)に対し、給与及び株式譲渡による収入(いずれも、消費税法上の課税売上げに当たらない)以外の収入はないと説明したことが認められる一方、原告は、被告(税理士)に対し、A社を実質的に経営していることを告げており、また、被告は、A社の本店所在地と原告依頼人の自宅住所地が同じであることを認識していたことが認められる。このような事実からすれば、税務の専門家である被告にとって、原告が自宅をA社に賃貸することによって賃料収入を得ている可能性があることは、容易に推測可能であったというべきである。」

質問に対して依頼人が真実と異なる回答をしたとしても、税理士が知っている他の情報からして、「それはおかしい」と思った場合には、それを追求していかなければならない、ということになるので注意していただきたいと思います。

次に、「積極調査義務」というものが問題となった、東京地裁平成22年12月8日判決(TAINS Z999-0133)を見てみます。

依頼者会社は、他社を吸収合併した。
会社は、合併を機に会計ソフトを変更した。
会社の経理担当者は、会計ソフトに勘定科目や、各勘定科目ごとに消費税の課税仕入れとなるか否かの区別などを初期設定したが、本来、課税仕入れの対象とならない会社と雇用関係になる派遣対象者に対する賃金・給料等の支払いを、「労務賃金」の勘定科目に設定し、誤って課税仕入れの対象に設定していた。
税理士は、依頼者会社の勘定科目の誤りに気付かずに、消費税及び地方消費税の申告を行った結果、後に、過少申告加算税、延滞税等の納付を要することとなった。
そこで、依頼者は、税理士に対し、損害賠償を請求した。

この事案も税理士敗訴、損害賠償義務が認められていますが、その理由は次のとおりです。

①依頼者会社の担当者は、会計システムの変更に伴い、自らの理解不足のおそれを懸念して、税理士に対し、初期設定した課税区分等の一覧表の確認を依頼した。
だとすると、このような状況の下においては、本件顧問契約に基づき、依頼者に対して税務上の助言等を行うべき義務を負っていた税理士としては、会計担当者による課税区分等の設定に誤りがないか慎重に検討し確認すべきであったということができる。

②依頼者会社の第26期における課税仕入れ額及び控除税額は、それ以前の……控除対象仕入税額と比較して著しく増加しており、……人材派遣の方法等の業務内容が大きく異なっていないことを考慮すると、これらの著しい増加は、それ自体が不自然である。
課税標準額との対比においても、(前期に比較し)一見して不自然である。
「労務賃金」の名称の勘定科目に計上された額が、本来課税仕入れ額に含めることのできない賃金・給料であることは、税理士が、依頼者会社において、これらについて所得税の源泉徴収をしているかどうかを確認するなどすれば、容易に判明する事柄であった。

一見して不自然な場合には、それは確認するべきだということです。

前期比、三期比較表などを作成していれば、それは明らかに不自然だとわかると思いますが、比較していない場合には、前期の申告書も見なければ、不自然かどうかは明らかにならない、という話になってくるでしょう。

ですから、税理士から見て、「これはおかしいぞ」と思った場合には確認していく義務がある、ということになります。

なお、他の論点として、税理士の主張は3つありました。

①委任者の指示にしたがって申告書を作成した、指示通りだ、と主張しましたが、先ほどの判例のように、裁判所は委任者の指示に不適切な点があるときは指摘して是正する義務があるとしました。

②「労務賃金」に勘定科目で計上されたものが、人件費か外注費かを委任者に確認したところ、外注費であり、課税対象であるとの回答を得たため、その通りに行ったと主張しましたが、裁判所は、委任者の回答を鵜呑みにしてはいけない、税務上の判断は税理士がすべきだ、としました。

③時間がなかったと主張しましたが、裁判所は、であればひとまず委任者の送付した資料に依拠して申告した上で、修正申告などを念頭に置いて、十分な検討を行うことなども考えるべきだった、と言っています。

つまり、間違える可能性があるのであれば、修正申告を検討してください、と言っているということです。

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