執筆:弁護士・税理士 谷原誠
会計業務委託契約書/会計業務再委託契約書/再委託に関する合意書など
税理士法人の運営にあたっては、社員税理士の行動に法的な制限があることを正確に理解しておく必要があります。
今回は特に、競業禁止規定と記帳代行業務の兼業に関する注意点を解説します。
社員税理士に課される
「競業禁止」のルール
法的根拠:税理士法第48条の14第1項
「税理士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその税理士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の税理士法人の社員となってはならない。」
この条文により、税理士法人の社員税理士は、法人の業務と競合するような活動を個人や他法人の名義で行うことが禁止されています。
なぜ競業が禁止されているのか?その理由
競業禁止の背景には、次のような重要な理由があります
- 事業上の秘密の保護と利益相反の回避
- 顧客(納税者等)の保護
社員税理士が別の事業に関与することで、法人の業務上の情報が漏洩するおそれがあるため。
税理士としての業務が、法人所属としての業務なのか、個人としての業務なのかが不明確になると、顧客との法的関係が曖昧になります。
結果として、顧客の信頼や法的保護が損なわれる可能性があるためです。
記帳代行会社との兼務に
注意が必要なケース
税理士法人とは別に、記帳代行業務を行う法人を設立し、社員税理士がその法人の役員に就任するケースは少なくありません。
ここで問題となるのは、税理士法人の定款に「会計業務」が含まれている場合です。
この場合、記帳代行業務も「税理士法人の業務の範囲内」と解釈されることになり、以下の通達に違反する可能性が生じます。
税理士法基本通達による注意喚起
税理士法基本通達48の14-1
「会計業務を行う税理士法人の社員税理士は、自己又は第三者のために会計業務を行うことは禁止される。
たとえば、社員税理士が、会計業務を行う他の法人の無限責任社員や取締役に就任して、当該法人のために会計業務を行うことはできない。」
つまり、社員税理士が記帳代行会社の役員となって実際に会計業務を行うことは、「競業禁止」に抵触するということです。
実務上の対応と留意点
- 税理士法人の定款に「会計業務」が含まれている場合には、特に注意が必要です。
- 記帳代行法人の設立や関与を検討する際には、社員税理士が業務執行に直接関与しないような体制を整える必要があります。
- 形式的な分離だけでは不十分で、実態として業務に関与しているかどうかが判断のポイントとなります。
まとめ
- 税理士法人の社員税理士は、競業禁止規定により業務範囲の競合行為が禁止されている
- 記帳代行会社への関与は、定款の記載内容と業務実態によっては法令違反となる可能性がある
- 実務で問題が起きやすいので、事前に法的リスクをチェックし、慎重に対応することが重要
会計業務委託契約書/会計業務再委託契約書/再委託に関する合意書など