千葉地方裁判所平成30年2月13日判決です。
事案
納税者が、平成27年分の所得税等について期限後申告をしたところ、処分行政庁から無申告加算税の賦課決定処分を受けたことから、法定申告期限内に確定申告書を提出しなかったことについて
国税通則法(平成28年改正前)66条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められると主張して、被告に対し、本件処分の取消しを求めた事案です。
納税者は、障害等級2級の精神障害者で、混雑した圧迫感のある場所へ行くと、頭が痛く発狂しそうになり、また、斜頸に苦しんでおり、納税者に無申告加算税を課すことは酷であるから、国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理由」がある旨主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、次のような理由で、本件では「正当な理由」には該当しない、として納税者敗訴判決を出しました。
無申告加算税は、無申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
このような無申告加算税の趣旨に照らせば、国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる場合」とは、
真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
納税者は、法定申告期限である平成28年3月15日の直後に、自ら3回にわたって千葉西税務署を訪れて納税相談を受けて税務申告をしていることからすると、納税者の障害の程度を考慮しても、同税務署に出頭して法定申告期限内に確定申告書を提出することに支障を及ぼすほど重篤な状態にあったとは認め難い。
解説
この判決が示す、
「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」
という基準は、最高裁判決の基準に従ったものです。
この基準によると、ほとんどの場合において、「正当な理由」は認められないことになります。
過去、「正当な理由」が認められた事例としては、
(1)
納税申告手続を委任された税理士の不正行為に税務署職員が共謀加担した事例(最三判平18.4.25)
(2)
課税庁が従来の取扱いを変更したにもかかわらず、納税者に周知させていなかったため、納税者の責めに帰することができないとされた事例(最三判平18.10.24)
など、限定的な場合です。
依頼者への助言などの参考にしていただければと思います。