所得税法12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、同法の規定を適用する旨を定めています。
この規定が争われた事例として、東京地裁平成29年10月18日判決をご紹介します。
事案
原告に対して所得税および消費税に関する税務調査があり、法人名義で行われた取引が、原告個人の事業から生ずる収益に関する取引であるとして、更正処分および重加算税等の賦課決定処分がされました。
原告は、処分取消訴訟を提起しましたが、裁判所は、次のように判断して、納税者敗訴判決を出しました。
裁判所の判断
本件各取引には、当該法人の役員や従業員は一切関与しておらず、役員ですらない原告のみの判断で行われていた。
法人名義口座の出入金は全て原告が管理していた。
当該法人において、本件各取引に係る総勘定元帳などの帳簿書類は作成・保存されておらず、決算や株主総会・社員総会等の会社法等所定の手続もとられたことがなく、原告を含めた役員に役員報酬が支払われたこともなく、原告が各処分に対する異議申立てを行うまで本件各取引に係る法人税の申告が全くされてこなかった。
以上からすれば、本件各取引において、当該法人は単なる名義人であり、その収益及び対価は原告が享受していたものというべきである。
重加算税について原告は、本件各取引について、法人の名義を用いて契約書等を作成し、あたかも各法人が取引を行ったかのような外形を作出するとともに、帳簿書類を作成・保存せず、また、経費に係る領収書の一部を廃棄するなどして、本件各取引の収益及び対価の享受に係る事実を隠蔽し、又は仮装したものというべきである。
結びに
実質的には、個人の取引を、法人名義で行うことがあると思います。
そのような場合に、実体を備えておかないと、本判決で認定されたように、法人は単なる名義人であり、収益及び対価は個人が享受していた、とされてしまう可能性があります。
この点、注意しておきたいところです。