税理士の先生より「第三者割当増資における課税リスク説明方法」について、
税理士を守る会でご質問をいただきましたのでご紹介いたします。

質問

当社の顧問先甲が第三者割当増資を行います。

増資の 1 株当たりの払込金額について、金額によっては株主に課税がなされるリスクがあるので、そのリスク説明を取締役にしたところ、「もう決めたことなので、それによって課税されたなら仕方ない」という回答でした。

説明した相手は甲の取締役になりますが、もし課税を受けるとすると、最も大きなリスクを負うのは甲の大株主である甲の社長となります。

これによる弊社の賠償リスクをなくすため、契約書にどのような記載をしたら良いでしょうか。

回答

契約書に記載するには、個別性が高すぎるので、契約書とは別の確認書や合意書の方がよろしいかと思います。

内容としては、①説明助言義務を果たし、②債務免除を得る、という 2点の記載が望ましいということになります。

リスクとしては、

・有利発行をした場合の出資した株主の所得税の課税リスク(申告の有無や納税額により各種加算税、延滞税、重加算税等を含む)
・株主間での相続税法 9 条のみなし贈与の課税リスク(申告の有無や納税額により各種加算税、延滞税、重加算税等を含む)

ということになるかと思います。

そこで、そのようなリスクを記載、それらを理解した上で、甲の判断と責任において決定すること、課税リスクが生じる甲の株主に課税リスクを説明する責任は甲にあり、税理士は説明義務を負わないこと、甲の株主に損害が発生した場合には甲らの責任と負担で解決し、税理士に対して損害賠償その他一切の請求権を放棄すること、などを規定しておくと良いかと思います。

【補足】

〈法務面〉

第三者割当による募集株式の発行手続きは、募集事項の決定について、公開会社では、原則として、取締役会の決議となります(会社法201条1項)。

公開会社以外の株式会社では、原則として、株主総会の特別決議となります(会社法199条2項、309条2項5号)。

「特に有利な金額」で発行する場合には、公開会社であっても、株主総会の特別決議によらなければならず、取締役は、その株主総会において、当該払込金額で募集株式の発行を行うことを必要とする理由を説明しなければなりません(会社法201条1項、199条3項)。

なお、第三者割当による募集株式の発行により、会社や株主に損害が発生した場合には、取締役に損害賠償責任が生ずる場合があります。

〈税務面〉

(1) 株式引受人
株式引受人が個人の場合、払込期日における株式の価額(時価)から払込金額を控除した金額(差額)について収入を得たものとされます(所得税法36条2項、所得税法施行令84条5号)。

したがって、特に有利な金額で新株を取得した場合には、当該差額が収入となります。所得税法施行令84条5号の「株式と引換えに払い込むべき額が有利な金額」についての判定方法については、所得税基本通達23~35に定められています。

この場合の個人株主の所得区分は、発行法人の役員・従業員等の場合には給与所得あるいは一時所得、その他の場合には一時所得となります。

同族会社の株主の親族等が株式引受人の場合に、有利発行をした場合には、株主間で贈与税が課税されることがあります(相続税法9条)。

株式引受人が法人の場合、払込期日における株式の価額(時価)から払込金額を控除した金額(差額)について受贈益として益金に算入されます。

法人の場合の有利な金額かどうかの判定方法については、法人税基本通達2-3-9等に定められています。

(2) 既存株主
過去の裁判例において、株式会社が著しく有利な発行価額で第三者割当増資をした事案において、既存株主(株式会社)から新株主(株式会社)に対して、資産の移転があったとして、法人税法22条2項の取引に該当する、とした裁判例があります(最高裁平成18年1月24日判決、判例時報1923号20頁、オウブンシャホールディング事件)。

反対に高額発行の場合には、・・・

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