――税理士が直面する損害賠償リスクとその回避のヒント
税理士という仕事は、信頼の上に成り立っています。
顧客にとって、税理士は「納税における伴走者」であり、「数字のプロ」であり、「法令の通訳者」でもあります。
ところが、そんな信頼関係が、たった一件のトラブルで音を立てて崩れることがあります。
それが、損害賠償請求です。
「まさか自分が」と思っていても、実際に税理士が訴えられるケースは年々増加しています。
職業賠償責任保険の支払総額は、ここ10年で顕著に増加していることからも、リスクが“現実のもの”になっていることがわかります。
見逃せない、税理士に対する損害賠償の典型パターン
税務申告に関するミスが発覚すれば、更正や修正申告が必要となり、加算税や延滞税が追徴されることになります。その費用を「損害」と捉えた依頼者から、損害賠償を請求される――これは決して珍しい話ではありません。
ですが、訴訟にまで発展した案件を丁寧に見ていくと、「そもそも防げたのでは?」というケースが多く見受けられます。
・口頭で伝えた内容が裏付けられる書面がなかった
・リスクのある判断を顧客に委ねたが、その記録が残っていなかった
・過失とまで言えないが、注意義務を果たした根拠が曖昧だった
こうした状況は、ちょっとした「備え」や「証拠化の工夫」で回避できた可能性が高いのです。
知識のアップデートは“自分を守る武器”になる
税理士は法律家ではないため、損害賠償に関する判例や法的アプローチに精通していない方も多いかもしれません。
しかし、税理士が果たすべき「注意義務」や、裁判所が損害賠償の可否をどう判断するかといった視点を理解しておくことは、リスク回避のために非常に有効です。
たとえば、
・裁判所がどんな点を重視して「税理士のミス」と認定するのか?
・どのような文書化が「防御材料」となり得るのか?
・業務記録を残す際、最低限押さえておくべきポイントは何か?
こうした“訴訟になる前の防御力”は、知識によって高められます。
対応力よりも、予防力が問われる時代へ
もちろん、万が一、損害賠償請求を受けた際の対応方法も重要です。
ただ、それ以上に大切なのは、「最初から請求されない業務設計」をしておくことではないでしょうか。
・トラブルを未然に防ぐために、日々の業務で何を意識すべきか?
・クライアントとのやり取りの中で、何を“見える化”すればいいのか?
・自分の業務が、客観的に“注意義務を尽くした”と証明できるか?
。
これらを一つずつ丁寧に見直していくことが、これからの税理士にとって欠かせない「プロフェッショナリズム」だと感じます。
損害賠償は「人ごと」ではなく「隣り合わせの現実」
ただし、必要な備えをしておけば、それは確実に「避けられるリスク」に変わります。
自分の業務を振り返り、見えない落とし穴を一つずつ潰していく――そんな取り組みを始めるには、今がちょうどよいタイミングかもしれません。
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