中小企業の経営者が大量に引退時期を迎える今、事業承継は「一部の事例」ではなく「全国的な課題」です。
70歳以上の中小企業経営者は、今後10年で約245万人に達し、そのうち約半数が後継者未定。
このまま手が打たれなければ、約650万人の雇用と22兆円のGDPが失われるという試算もあります。
こうした背景を受けて、政府も事業承継税制を大きく見直し、法人・個人それぞれに特例制度を導入してきました。
こうした制度の活用支援において、現場で最も重要な役割を担っているのは、やはり税理士です。
制度を支える「実務の最前線」にある税理士
多くの中小企業にとって、税理士は身近で信頼できる専門家です。「うちの事業、そろそろ誰かに譲ろうと思っていて……」といった経営者の何気ない言葉から事業承継の話が始まることも多いはずです。
ところが、この業務、税務だけで完結するものではありません。
実際には以下のような法的論点が、絡み合うように存在します。
・自社株の評価と譲渡に伴う会社法や相続法の知識
・特例事業承継税制の適用に関する納税猶予の要件管理
・万が一、納税猶予が打ち切られたときの損害リスクの所在
・関係者間の利害調整と、それを文書化する契約法務
つまり、税理士が直面するのは「税務相談」ではなく、「総合的な法務支援」の一端なのです。
特例事業承継税制の“見えないリスク”
制度自体は魅力的でも、実務上は慎重に進めざるを得ない事情があります。
それは、納税猶予の打ち切り事由の多さです。
制度の適用後も、経営者や後継者、会社の状況次第で納税猶予が打ち切られ、多額の税負担が突然発生するリスクがあります。
そしてその結果、依頼者から「なぜ教えてくれなかったのか」と問われるリスクが税理士に跳ね返ってくる可能性も、決してゼロではありません。
税理士にとって事業承継支援は、大きなやりがいとともに、見落とせない賠償リスクを内包しているのです。
「助けたい」という想いを、責任に変えないために
事業承継の現場では、「顧問税理士がここまでやってくれた」と感謝される一方で、将来的にトラブルへと発展するケースも少なくありません。
実際に過去の判例を見ても、助言義務の範囲や注意義務違反の有無をめぐって争われた事例がいくつも存在します。
このような時代だからこそ、税理士としては以下のような観点を改めて持つ必要があります
・どこまでが税理士の守備範囲なのか
・法的な説明責任をどう明確に残すか
・依頼者との合意形成を、どのように「証拠化」するか
・弁護士との連携はどこで必要になるか
これからの事業承継支援のニーズは確実に高まります。
その中で、税理士が担う役割はますます大きく、そして複雑になっていきます。
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