今回は、「事業承継税制の特例措置で税理士が税賠を回避する契約法」について、お話をしたいと思います。

事業承継税制の特例措置については、贈与税や相続税がありますが、今回は贈与税について説明をしていきます。

【非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免税(新事業承継税制)の手続きの流れ】

(1)2023年3月31日までに、特例事業承継計画の提出確認を受ける
(2)贈与の実行
(3)円滑化法第12条1項の認定を受ける
(4)贈与税の申告
(5)事業を継続しながら、事業継続の報告書と届出書を年に1回、5年間提出し続ける
(6)その後は、3年に1回、報告書と届出書を提出し続ける
(7)先代経営者の死亡等。切り替え確認等
(8)猶予税額の免除

事業承継税制の特例措置はリスクが高い、と業界では言われていると思います。

では、リスク段階として、どういったものが考えられるでしょうか。

【事業承継税制の特例措置に関するリスクの10段階】

(1)当初説明・助言をしなかった、あるいは間違っていた場合

(2)自社株対策
事業証券特例措置については、打ち切りリスクが非常に大きく、当然ですが打ち切られた時に贈与税がかかります。
贈与税をなるべく低く抑える、失敗したことを知った時のリスクをなるべく少なくするため、自社株対策をした上で始めるという場合があると思いますが、この自社株対策を間違えてしまうリスクです。

(3)特例承継計画の作成・提出等を間違ってしまった場合

(4)特例承継計画の変更申請書で変更をしなかった、あるいは間違ってしまった場合
なお、この変更申請書は1回提出しても変更は可能です。
(5)贈与税・相続税申告書作成・申告代理
これは普段行っている業務における間違いです。

(6)経営承継円滑化法第12条一項の認定申請と確認を間違ってしまった、あるいはしなかった場合

(7)特例承継期間中(毎年1回)及び特例承継期間経過後(5年経過後、3年に1回)における年次報告書、継続届書を提出しなかった、あるいは間違えた場合。

(8)特例承継期間中および特例承継期間経過後において打ち切り事由へ対応(雇用確保用件を含む)
後ほど解説しますが、打ち切り事由がたくさんあるので、これらに対処するの を間違ってしまった場合、あるいは助言しなかった場合です。

(9)贈与税の納税猶予から相続税の納税への切り替え確認

(10)贈与税・相続税の免除申請

【リスクの10段階において想定される損害賠償請求の理由】

次の7種類を想定しています。

① 説明助言義務違反(不作為)
説明助言をしなかった、ということで損害賠償される場合です。

② 説明助言義務違反(誤り)
説明助言義務が間違っていたことで損害賠償請求される場合です。
「間違っていた」ということには、正しい説明・助言をしたけれども、その正しいことを言ったことの証拠がないために裁判で敗訴してしまうという場合も含みます。

③ 適用の過誤

④ 各種書類・届出書の提出失念

⑤ 申告書等への適用明記、添付書類漏れ

⑥ 期日管理に関する説明助言義務違反
特に、年1回、3年に1回の報告書等の提出の説明をしなかったような場合です。
「前年は説明してくれたが、今年は説明してくれなかった」というような損害賠償請求のリスクが該当します。

⑦ 打ち切り事由に該当しないよう監視・指導をする義務違反
減資の禁止等を監督・指導する義務違反で賠償請求されることもあるので注意が必要です。

このように、リスクが非常に高いということになると、事業承継は行いたくないという税理士先生もいらっしゃると思います。

しかし、事業承継案件を受任していなくても、クレームになることもあるのではないかと思います。

例えば、法人等と顧問契約をしていたが、事業承継については他の事務所を紹介し、その事務所が手続きをしたが、特例承継機関にしなければならない報告を怠ったために、そこで打ち切られ、贈与税が課税された、というケースです。

この場合、依頼者から次のようなことを言われる可能性があります。

①「事業承継は、他の事務所にお願いしました。でも、先生は当社の顧問弁護士で、事業承継税制を適用したことをご存じですよね。1年ごとに報告をしなければいけないことを知っていたでしょう。なぜ助言してくれなかったのですか? それは顧問税理士としての助言義務違反ではないのですか?」

②「事業承継をお願いした事務所とは、すでに契約が切れていることは知っていたでしょう? 私が契約している税理士は先生だけなんですよ。先生が言ってくれなければ私はわかりません。これは、助言義務違反ですよね?」

したがって、事業承継税制を行っていなかったとしても、一定程度のリスクが出てきてしまう、ということです。

そこで、こうしたリスクも排除したい、どうしても事業承継案件を行いたくない、ということであれば、場合によっては、顧問契約書等に記載してしまうという方法もあります。

「顧問契約時に契約書に記載する条文例」
第●条、事業承継税制の手続を選択したか。
( 選択した・選択していない )
※事業承継税制の助言・手続・期日管理等は、委任業務の範囲外であることを確認した。

このように、「私は一切、触りません」ということも契約書に書いてしまう、という方法もあります。

さて、ここまで見てきたように、事業承継税制は少なくとも顧問先には説明しなければいけない、ということになります。

そうしないと、
「説明を受けていれば、これを適用していました」
「そうすれば、贈与税がかからなかったじゃないですか」
「先生のせいで、これだけ贈与税がかかりました」
などと言われてしまいかねません。

ところが、説明をしたにも関わらず、「説明を受けていない」と言われる可能性が後日出てくる可能性があるため、証拠化をしておく必要があります。

【新事業承継税制で説明助言したことを立証するには?】

当所の説明助言をどのようにしていけばいいのか、いろいろな資料を見ましたが、やはり国税庁が作成したパンフレットが、もっとも間違いがないでしょうし、簡潔にまとまっているので、これをダウンロードして、それを示しながら、制度の説明をするというのが一番漏れがない、あるいは間違いがないのではないかと思います。

該当するページは、
「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」
「法人版事業承継税制 国税庁」
などのワードで検索するとよいでしょう。

そして、説明したことを証明するためには、

(1) その写しを交付して、
(2) 説明し、
(3) 写しの交付を受けたことと、説明を受けたことの確認の署名・押印を得る。

ということをしておけば、後で立証できるということになります。

さて、ここで先にお話しした、リスク段階について再考します。

特例承継計画の変更申請書については、1回提出しても変更ができる、とお話ししました。

変更があった場合、特例承継計画の変更申請書を提出しなければならないのですが、問題は、その会社に変更があったことは知っていたが、変更申請書を出さないといけない、ということを思いつくかどうか、のリスクがあることです。

不提出があった場合に、後日、もともとの特例承継計画で実行しないと、条件を満たしていない、ということになってしまう恐れもあるということです。

また、毎年1回(5年間)、その後の3年に1回の報告書・届出書を忘れずに出し続けることができるのか、という問題もあります。

さらに、たくさんある打ち切り事由に該当しないように常に監督しておくということができるのかどうか、依頼者が打ち切り事由に該当する行為をしようとしていたら制止することができるのか、といった心配もあると思います。

こうしたことから、事業承継税制を利用しないという先生もたくさんいらっしゃるわけですが、逆に積極的に利用するという先生もいらっしゃいます。

【受任のメリット】

利点として、新事業承継税制の特例措置を行えば、
・期日管理報酬を得られる(別途の報酬が得られる)
・顧問契約が解消されにくくなる
と言う先生もいらっしゃいます。

ただ、事業承継業務を主力業務としていらっしゃる先生はいいのですが、通常の個人の確定申告、法人税の確定申告を主力業務とされている先生が、本当に期日管理、監督ができるのかという問題があります。

【やってはいけない納税猶予打ち切りリスク(特例承継期間)】

特例承継期間には、次のような多くの打ち切り事由が該当しています。

① 代表者を後継者から変更をまたは代表権の制限をしてはいけない。
② 従業員数が80%未満となった場合、これを放置してはいけない。
③ 後継者、同族関係者の議決権割合は50%以下にしてはいけない。
④ 後継者を筆頭株主からはずしてはいけない。
⑤ 非上場株式を譲渡または贈与する場合は、シミュレーションが必要。
⑥ 議決権制限株式に変更してはいけない。
⑦ 拒否権付株式(黄金株)を後継者以外に付与してはいけない。
⑧ 解散・分割型分割・合併解消・株式交換等で子会社にする場合は、シミュレーションが必要。
⑨ 減資・準備金の額の減少をしてはいけない。(事業承継税制適用前に実施しておく)
⑩ 組織変更してはいけない。
⑪ 資産管理会社・資産運用会社にしてはいけない。
⑫ 株式上場する場合は、シミュレーションが必要。
⑬ 性風俗営業会社にしてはいけない。
⑭ 総収入金額(営業外収益・特別利益を除く)がなくなりそうな場合は対策をしなければいけない(ゼロで打ち切りになる)

これらを監督し続けることができるのか、ということになります。

5年が経過した後も何年かかるかわからないですが、その後もまだ打ち切り事由があるわけです。

例えば、解散・清算や、減資・準備金、組織変更、資産管理会社・運用会社に関する項目などです。

こういったことを何十年も監督し続けることができるのか、ということです。

【税理士損害賠償をどう防ぐのか?】

リスクが非常に高い事業承継税制について、これを適用する、業務として行うという場合、どのように税理士損害賠償を防いでいけばいいのでしょうか。

私が推奨しているのは「五段階契約手法」という、多段階で契約を結んでいく方法です。

契約段階を五段階に分け、一つひとつ別々に契約を結んでいきます。

「第一段階(当初説明助言業務)」
1.自社株式の評価額算定
2.本契約期間における事業承継税制の説明及び適用判定
3.事業承継税制の利用における本契約期間における贈与税・相続税の試算と対策助言

これを第一段階の契約として、第二段階以降は受けません、この段階で受けていません、というような契約をするということです。

「第二段階」
特例承継計画の作成・提出支援(変更)だけを受けます。

「第三段階」
贈与税・相続税の申告業務を受けます。

「第四段階」
経営承継円滑化法第12条1項の認定申請を受けます。

「第五段階」
その後の業務として、毎年1回、1年ごとに、年次報告書の提出等の契約をします。
来年の報告書は受任範囲外、と明記するということです。

【対象外業務除外の記載方法】

例えば、第一段階の契約をする場合は次のように記載します。

「業務範囲」
1.自社株式の評価額算定
  金●●円(消費税別途)
  ※不動産その他の鑑定費用・専門家費用は含まれません。
2.本契約期間における事業承継税制の説明及び適用判定
  金●●円(消費税別途)
3.事業承継税制利用における本契約期間における贈与税・相続税の試算と対策助言
  金●●円(消費税別途)

※以下は業務範囲に含まれません。別途契約となります。
(1)自社株対策(組織再編含む)
(2)特例承継計画の作成・提出から始まる事業承継税制の実行支援および期日管理。

なお、特例承継計画は、2023年3月31日が提出期限となりますので、ご希望の際は、お申し出ください。

このように書いておけば、特例承継計画提出以後の業務は対象外となります。

ですから、「先生、承継計画出してくれましたか?」というような争いはなくなるということになります。

そして第2段階、第3段階も、それ以降の業務を業務範囲から切り離していくことで争いを防ぐことができますので、受任した業務に集中していればよい、ということになります。

【五段階契約は誰と契約をするべきか?】

次に、この多段階契約、五段階契約手法は、誰と契約をすべきかという問題があります。

登場人物としては①法人、②先代経営者、③受贈者、相続人等の承継者、が出てきます。

中には、「法人と契約しましょう、なぜなら契約当事者にしか義務を負っていないから、それを少なくしたほうがいいですよ」という人もいます。

しかしながら、私が推奨しているのは、この①②③の全員を契約当事者に取り込む方法です。

なぜなら、契約をしていなくても、第三者から訴えられる場合があるからです。

それが、不法行為に基づく損害賠償請求というものです。

法人とのみ契約をしていても、受贈者、相続人から訴えられることがあるということです。

その場合に、契約当事者ではないので、契約書に書いてある条項は適用されないということになってしまいます。

ところが、その事業承継税制で損害をもっとも被るのは、贈与税や相続税がかかる人たちである、受贈者や相続人です。

税理士としては、この人たちから訴えられるのが一番怖いわけですから、この人たちを契約に取り込んだほうがよい、ということになります。

ただし、受贈者、相続人は個人になるので、消費者契約法の適用がされてしまって、損害賠償額の制限条項がある程度制限されてしまう、というようなデメリットがあります。(これはまた別の機会に説明します。)

しかし、こうしたデメリットがあったとしても、全員契約に取り込むことによって、多段階、五段階で分けるメリットが適用できるので、私としては全員を契約の当事者に取り込む方法をおすすめしています。

ところで、この五段階契約手法は、税理士の責任回避ではないか、と思われる方がいるかもしれませんが、これが本来のあり方だと私は考えています。

というのは、この事業承継の特例をして恩恵を受けるのは受贈者や相続人等の承継者です。

そうであれば、その人たちが本人なので、本人たちがこの打ち切り事由等に該当しないように気をつけるべき義務がある、というように思います。

そして税理士は、当事者ではなくて、あくまでも支援する人です。

本人を支援してバックアップしてあげる人になるので、あくまでも本人が責任を負って、税理士は専門知識を生かして、それを支援するというような立場にあるということです。

契約書によって、「あくまでも当事者はあなたです、あなたが気をつけなければいけないのです」ということを説明して、その上で税理士がしっかり支援します、という契約形態にしていくのがよいのではないかと思っています。

今回は、事業承継の特例措置で税理士が損害賠償を受けないようにする方法、五段階契約手法というものについて説明しました。

ぜひ、損害賠償を受けないように気をつけていただきたいと思います。

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