今回のテーマは、「税理士に対する損害賠償の2種類の法律構成」です。

税理士に対する損害賠償の法律構成は、じつは2種類あります。

まず一つ目は、債務不履行というものです。

最高裁昭和58年9月20日判決で、「本件税理士顧問契約は、…全体として一個の委任契約である。」と判断されたものがあります。

したがって、通常の税理士の顧問契約は委任契約である、と理解していただくことになります。

委任契約は、民法第643条にあります。

「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委任し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」

申告行為や申告代理行為をすることを税理士に委託する、というのが「委任契約」になります。

委任契約と区別しなければいけないものに、「請負契約」というものがあります。

じつは、税理士の業務でも請負契約に該当する場合があります。

請負契約は、民法第632条です。

「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」

完成して、それに対して報酬を払うとは、例えば建築請負契約があります。

建物を完成し、引き渡して、それに対して報酬を払う、というのは請負契約ということになります。

では、税理士の業務が請負契約になるのは、どういう場合があるでしょうか。

何かを完成して引き渡し、それに対して報酬をいただく、ということになるので、

例えば、

・税務書類を作成、完成して、それを引き渡す
・それに対して報酬をいただく
・それ以上に申告・代理行為等は行わない、したがって、税務代理権限証書はいただかない

というようなときは請負契約になる場合があります。

なお、請負契約で業務を請け負った場合には、契約書に印紙が必要になるため、印紙税も発生するので、注意してください。

債務不履行の損害賠償の根拠は、民法第415条に条文があります。

「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債務者は、これに生じた損害の賠償を請求することができる。」

債務の本旨に従った履行をしない、ということです。

これは、債務者の責に帰すべき事由が必要だといわれていますが、それは故意・過失等の不注意、または信義則上これと同視すべき事由、といわれています。

故意・過失はわかりやすいと思います。

では、「信義則上これと同視すべき事由」とはどいうものかというと、会計事務所の職員や所属税理士、採択した税理士などの、いわゆる「履行補助者」の故意・過失、不注意があった場合、ミスがあった場合には、それによって生じた損害は所長先生の負担になる、ということです。

つまり、職員がミスをして依頼者に損害を与えた、という場合には所長に全額請求がくる、ということになります。

ここで一つ、善管注意義務についてお話をしておきたいと思います。

善管注意義務については、裁判所が繰り返し、税理士の注意義務について表現をしており、次のような表現が判決の中で繰り返し行われます。

「税理士は、税務に関する専門家として、納税義務者の信頼にこたえ、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする専門職であり(税理士法第一条)、納税者から税務申告の代行等を委任されたときは、委任契約に基づく善管注意義務として、委任の趣旨に従い、専門家としての高度の注意をもって委任事務を処理する義務を負うものと解される。」
(東京地裁平成22年12月8日判決/判例タイムズ1377号123頁)

これは、いわゆる専門家責任といわれるものです。

普通の場合、この判決文にある「高度の」が取れて、「善管注意義務としての注意に違反した」といわれるのですが、税理士は専門家なので、「高度の注意」というように書かれます。

そのため、非常に厳しい注意が課せられるという結果になります。

さて、債務不履行も「永遠に」というわけではありません。

消滅時効というものがあります。

民法第167条第1項では、「債権は、十年間行使しないときは、消滅する。」とされています。

ただ、税の時効については、「原則5年、偽り、または不正の場合は7年を経過したらこないのではないか」という考えもあるのですが、そうはいきません。

過去には、委任事務終了後、約10年後に税理士に対する損害賠償請求訴訟が提起された、という裁判例があります。

これまで私は税理士損害賠償をたくさん扱っているのですが、過去に経験した事件の中には、7年を超えた後に、いきなり弁護士から内容証明郵便が届いて裁判になってしまった、という案件もあったので注意していただきたいと思います。

この点、時効については改正が入っています。

「改正民法第166条」
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

1項では5年間と短くなっていますが、では1項と2項の違いは何かというと、「知った時」がポイントになります。

2項では、「10年間で消滅する」とありますが、仮に依頼者が、「損害賠償請求をすることができる」と知ったとするならば、そのときから時効は5年になる、ということです。

これが、1項と2項の関係です。

この改正民法が適用されるのは、2020年以降に損害賠償債権が発生したとき、ということになります。

次に、「不法行為に基づく損害賠償請求」についてお話しします。

これについては、民法第709条で、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」とされています。

そして、ここにも先ほどお話しした「履行補助者」と同じような規定があり、これは一般に「使用者責任」といわれるものです。

民法第715条第1項に、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の施行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」とあるので、先ほどの「履行補助者の故意・過失」と同じように、やはり職員や所属税理士等がミスをして相手に損害が出てしまったら、所長先生に不法行為に基づく損害賠償請求がくる、ということになります。

なお、不法行為にも時効があります。

「民法第724条」
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年経過したときも、同様とする。

20年というのは、被害者保護のために長くなっているわけです。

ただ、過去の裁判例を探したところ、先ほどの10年というのが一番長いものになっています。

次に、「債務不履行」と「不法行為」の法律構成の違いについて解説します。

まず、「帰責事由」(どういう責任があるのか)、そして「故意・過失の立証責任」というものがあります。

債務不履行の場合では、税理士の側が帰責事由がないということを証明していかなければならないのですが、不法行為の場合は、依頼者の側が「そちらに帰責事由があります」「こういう故意・過失があります」ということを証明していかなければならない、ということになります。

ただし、これは訴訟記述上のものなので、特に覚えなくてもいいかと思います。

次に時効については、債務不履行の場合10年(改正あり)、不法行為の場合は3年、20年となっていますが、これは「請求する側がいつ請求するか」の問題なので、こちらについては請求されたときに調べればいいと思います。

そして、契約関係については、債務不履行の場合には契約に基づく責任、ということになるので、契約関係にない人から請求されることはありません。

しかし、不法行為の場合には、契約があってもなくても関係なく請求されることになります。

例えば、次のような場合です。

税理士が税務書類を作成して依頼者に渡したら、依頼者がそれを金融機関に提出した。
じつは、それは粉飾決算だったが、粉飾決算を信用してしまった銀行がお金を貸した。
しかし会社が倒産した。
その後、銀行が調査したところ、粉飾決算書類だったことが判明した。
作成税理士の欄を見ると、税理士の名前が書いてあることから、税理士に故意・過失があったと判断され、契約関係のない銀行から、あるいは取引先から損害賠償請求を受けてしまった。

このような場合は、不法行為のみで損害賠償請求がくる、ということになります。

損害賠償請求をされる場合、訴状では「原告は、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求する。」というように、両者が請求されるような場合が結構多いです。

ところが判決の際には、「債務不履行に基づいて〇〇円支払え」「不法行為に基づいて〇〇円支払え」というように二者択一で結論付けられることになります。

以上、税理士が損害賠償請求をされる場合の2種類の法的構成について解説をしました。

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