税理士の先生より「粉飾決算における役員の責任と損害賠償 」について、
税理士を守る会でご質問をいただきましたのでご紹介いたします。

質問

当事務所の顧問先に関するご相談です。

非上場企業の中小企業ですが、過去からの多額の粉飾決算の事実が発覚し、破産をすることとなりました。

それに伴い、金融機関各行から役員個人の責任追及をされることになりました。

粉飾決算に関与していた役員は、代表取締役のみです。

他の役員である専務取締役、取締役および監査役は、粉飾への関与は全くなく、粉飾していた事実すら全く知りませんでした。

決算書については、代表者のみが保有していたため、他の役員は見ることができなかったようです。この場合において、粉飾に関わっていない取締役に対して民事上の責任を追及され、損害賠償しなければならないようになるでしょうか。

回答

1  役員の責任

取締役、監査役は、その職務を行うについて悪意または重過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条 1 項)。

責任を負うための要件は、

① 役員等が株式会社に対する任務を懈怠したこと
② 役員等に悪意または重過失があること
③ 第三者に損害が生じたこと
④ 損害と任務懈怠との間に相当因果関係があること

です。

全員に共通することとして、④において、銀行が粉飾決算がなかったならば融資をしなかったり、借換えに応じなかった、あるいは粉飾決算を知っていたら、もっと早期に債権回収に入って多くを回収できた、というような事情が必要です。

それが認められる場合は、代表取締役は損害賠償責任を負担することになるでしょう。

他の専務取締役、取締役および監査役は、粉飾への関与は全くなく、粉飾していた事実すら全く知らず、決算書も持っていない、といういことですが、正規の手続きで役員に就任したのであれば、会社法上、取締役の職務執行に対する監視義務があり、かつ、決算承認に関与しているはずなので、それら義務を怠ったことには重過失がある、と認定される可能性が高いでしょう。

しかし、下級審裁判例では、名目的取締役は会社経営に対する影響力はないため、代表取締役等の違法な業務執行を止めようとしたとしてもそれができたとは認められない、として、名目的取締役の任務懈怠と第三者の損害との相当因果関係を否定したものもあります(東京高裁昭和57年3月31日判決)。

したがって、名目的役員の場合は、責任が否定される可能性もあります。

また、粉飾決算の場合は、会社は税金を払いすぎていることになり、損害が生じています。

この場合、更正の請求が可能な部分については、損害を回復することができますが、更正の請求期間を経過してしまっている場合には、その部分について会社に損害が生じていることになり、会社から損害賠償請求、または、株主代表訴訟を提起される可能性があります。

さらに、粉飾決算により、分配可能額が過大となり、分配可能額を超えて配当をしている場合には、違法配当の責任も生じます。

2  税理士の責任

税理士としての善管注意義務として、・・・

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