税理士の先生より「申告期限間際の解約と税賠リスク」について、
税理士を守る会でご質問をいただきましたのでご紹介いたします。

質問

申告期限間際の解約に係る下記の点につきまして教えていただけますでしょうか。

1 .申告期限間際にクライアントから脱税を強要され、(脱税の強要を理由として)税理士側から契約を解消した場合、クライアントから期限後申告となったことにより発生した加算税や延滞税等について損害賠償を受けるリスクはありますでしょうか(解約の理由が脱税の強要であれば損害賠償を受けるリスクはないでしょうか)。

2 .(脱税の強要とまではいかず)決算に係る質問に対しての回答不備や資料の不備等により、今後、適正な決算申告業務をできないと判断し、申告期限間際に税理士側から契約を解消した場合、損害賠償を受けるリスクはありますでしょうか。

3 .申告期限間際の解約の理由が税理士の都合である場合、その解約によりクライアントに生ずる損害(解約した税理士側が損害賠償されるもの)とはどのようなものが考えられるでしょうか。

4 .期限内の申告業務を論点とした場合、一般的にクライアントに不利益が生じ得る解約の時期とは、申告期限の何日前以降でしょうか。

回答

1 .について

まず、税理士とクライアントとの契約類型ですが、最高裁昭和58年 9 月20日判決は、「本件税理士顧問契約は、…全体として一個の委任契約である」としています。

そして、委任契約については、民法651条が、次のように規定しています。

「 1  委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」

したがって、申告期限間際に税理士が委任契約を一方的に解約することは、民法651条によって可能です。

しかし、その解約がクライアントに不利な時期であり、クライアントに損害が発生した場合には、民法651条 2 項により、損害賠償責任を負担します。

ただし、その解約について「やむを得ない事由があったとき」は、損害賠償責任は発生しません。

そこで、やむを得ない事由があったかどうかを検討します。

税理士法36条は、「税理士は、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき、指示をし、相談に応じ、その他これらに類似する行為をしてはならない。」と規定しています。

この規定により、税理士は、脱税に加担する申告代理行為をすることは禁止されています。

クライアントから脱税を強要された場合には、この規定によって、当該申告代理行為をすることができないことになりますので、民法651条2項但書の「やむを得ない事由」に該当し、損害賠償責任を負担することはないと考えます。

ただし、以下の立証資料が必要です。
・脱税を強要されたこと
・税理士がそれを拒否し、適法な申告をすべきことを助言指導したこと
また、クライアントが税理士の助言指導にもかかわらず、脱税をし、後日の税務調査で過少申告加算税、延滞税、重加算税等を科せられた場合に、「税理士から、そのような不利益があるとは指導されていなかった。こんなことになるなら、適正な税務申告をしていた」などという理由で、損害賠償請求をされる可能性があります。

そこで、「脱税に伴う不利益」を説明し、その説明したことを書面等で証拠化しておくことをおすすめします。

2 .について

これは、質問内容、説明内容、そしてクライアントからの回答や資料不備の程度、申告期限までの時間的余裕など、総合的な事情によりますので、一概に回答はできません。総合的に考えて「やむを得ない」と評価されるかどうかの問題となります。

3 .について

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