今回は、重加算税のつまみ申告に関する最高裁判例を解説します。
参考書籍として、私が書いております『税務調査における重加算税の回避ポイント』という書籍、これも参考にしていただければと思います。
【重加算税賦課要件(過少申告)】
重加算税については、過少申告の重加算税無申告や不納付加算税などもありますが、まずは過少申告とされる要件について見ていきます。
「国税通則法第68条1項」
①過少申告加算税の規定に該当する場合において、
②納税者が
③その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、
④隠蔽し、または仮装をしたところに基づき納税申告書を提出していた
という場合に重加算税が課されるのですが、次に③にある「隠蔽し、または仮装し、」に該当するかどうかについて考えます。
【隠蔽、または仮装とは?】
国税庁の資料に、「課税処分に当たっての留意点」(平成25年4月 大阪国税局 法人課税課 TAINS H250400課税処分留意点178頁)というものがあります。
ここで名古屋地裁の判例を引いて、隠蔽、また仮装について説明をしています。
「『隠蔽』とは、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、また『仮装』 とは、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲することをいう」(名古屋地裁昭和55年10月13日判決)
国税庁は、この定義に基づいて、「隠蔽し、又は仮装し、」ということを考えていると思います。
多くの場合には、不正経理や二重帳簿等の積極的行為があるわけですが、積極的な行為がない場合にも重加算税が課せられる場合があります。
その一つが、「つまみ申告」というものです。
【つまみ申告とは?】
不正経理や二重帳簿等の作成等の積極的な行為がないという場合であって、所得金額や収入金額の一部のみを故意につまみ出し、つまみ出した過少な所得金額などを申告書に記載して提出することを「つまみ申告」といいます。
この場合、先ほどの定義をもう一度、見てください。
故意に脱漏したり、故意に事実を歪曲することが隠蔽また仮装になるので、果たして、つまみ申告が積極的な行為がないのに隠蔽また仮装にあたるのか、ということが論点になるわけです。
そこで、最高裁が決着をつけています。
「最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決(民集48巻7号1379頁、TAINS Z206-7415)
(事案の概要)
1.Xの亡夫Aは、白色申告に係るサラリーマン金融業を営んでおり、昭和53年分ないし同55年分の所得税に係る確定申告をそれぞれ法定申告期限内に行った。
2.亡Aは、その後4回にわたり修正申告をした。
3.課税庁は、亡Aが、3年分にわたって真実の所得金額の大部分を脱漏し、過少申告をしたことから、過少申告加算税、重加算税等の賦課決定をした。
4.そこで、Xは、処分取消訴訟を提起した。
5.本事案では、亡Aは、本件係争各年における営業につき正しい会計帳簿類を作成記載しており、取引記録及び貸付金・利息の入手金を集計した記録も揃えていた。
(事実認定)
(1)正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類を作成していながら、3年間にわたり極めてわずかな所得金額のみを作為的に記載した申告書を提出し続けた。
(2)税務調査に際しても過少の店舗数等を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応をして、真実の所得金額を隠蔽する態度、行動をできる限り貫こうとしている。
(3)申告当初から、真実の所得金額を隠蔽する意図を有していたことはもちろん、税務調査があれば、さらに隠蔽のための具体的工作を行うことをも予定していたことも明らか。
※(1)が、いわゆる「つまみ申告」になります。
(あてはめ)
(ア)本件各確定申告の時点において、白色申告のため当時帳簿の備付け等につきこれを義務づける税法上の規定がなく、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠蔽しようという確定的な意図を持っていた。
(イ)必要に応じ事後的にも隠蔽のための具体的工作を行うことも予定してい
た。(ウ)会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出した。
したがって、本件では重加算税は適用されると最高裁は認定した、ということです。
・まず、確定申告時点において真実の所得金額を隠蔽しようという確定的な意図を持っていた。
・事後的にも工作を行うことを予定していた。
・さらに、会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏した。
・そして、申告書に殊更、過少に記載した。
これらの条件が整った場合、隠蔽または仮装に該当するということになります。
【つまみ申告の要件を満たさない場合の反論】
つまみ申告で要件を満たさない場合、つまり重加算税が違法になるような場合、反論を行うとしたら、当然これらの反対側から見ることになります。
「つまみ申告の要件を満たさない場合」
(1)本件確定申告の時点において、真実の所得金額を隠蔽しようという確定的な意図がない場合
確定申告時点では、隠蔽、仮装をする気はさらさらありませんでした、という反論がまず考えられます。
(2)事後的にも隠蔽のための具体的工作を行うことを予定していたとは言えない場合
後々、何らかの隠蔽工作を予定していたわけではないです、なぜなら……というような反論です。
(3)所得金額を殊更過少に記載したとはいえないような場合
このような反論ができる場合には、本件の最高裁の条件を反対解釈して、反論を行っていくということになるかと思います。