今回は、税理士に対する損害賠償を回避する債務免除証書について説明をしていきたいと思います。
【債務免除に関する判例】
まずは、裁判例から見ていきます。
「東京地裁平成18年4月18日判決(TAINS Z999-0105)」
(事例)
過年度所得税の確定申告手続を処理した税理士及びその履行補助者(職員)に対し、同人らが不動産所得の計算上、減価償却費を法令上の限度額よりも少額に算入して税務申告した結果、税の過納付が生じたと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を行った。
じつは、この事例では、依頼者から税理士らに対し、債務を免除したかのような証書、誓約書が2通作成されていました。
次のような書類です。
「昭和五十九年度白色不動産所得税申告時に●の将来を考え昭和六十年度より青色専従者給与の取得等種々の相談をし、最善の方法として定額法を採用したのであり、Aマンションに関する一切を私、●が申告人●の代理として承諾して処理したことであり、昭和五十九年度申告と以後の申告所得に関する件は税理士●2氏および職員●氏に責任を帰するものではない事を証明いたします。」
「今後いかなる事がありましても、●先生並びに旧職員の●様には、それらの処理に於いて一切の責任を負わないとすることを、ここに文書にて証明いたします。」
これで、債務が免除されているのだから、税理士は責任を負わないのではないか、ということが争われたわけです。
では、債務免除について見てみましょう。
民法519条(免除)
「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は消滅する。」
債務を免除する意志ということですから、債務が発生することと、債務額が不明の段階で債務がいくらなのかわからないのに、果たして債務免除できるのかということが問題になってくるわけです。
そこで本件では、裁判所は誓約書を債務免除の意思表示であると認めた上で次のような判決を下しました。
(判決)
「債務免除の意思表示は、必ずしも債務の存在を確定的に認識していなくとも、」その「程度の債務発生の可能性に対する認識があれば有効になし得る。」
ということは、税務業務を行っている中で、債務免除の証書、誓約書を取ることは税賠を回避する上では有効だということになります。
【債務免除証書の作成方法】
では具体的に、どのように債務免除証書を作成していけばいいのでしょうか。
①まずは、処理の説明があります。
②処理の説明を書いた上で、「ただ、これは将来、税務調査があって否認されることがあります。その場合には過少申告加算税、延滞税、場合によっては重加算税を課される可能性があります。」ということ等を書いたり、あるいは、「一旦これで申告をしますが、後日、再検討の上、修正申告なども検討したほうがいいです。」というような説明を証書の上のほうに書きます。
③そして最後に、「以上の説明を前提に、今回は、私の判断と責任において上記処理を採用するとともに、将来、私に不利益が生じた場合でも、貴職に損害賠償その他一切の請求をしないこと(責務免除すること)を確認しました。」というようなことを記載しておきます。
このような債務免除証書を書いてもらって、申告書と引き換えにするというような方法があります。
【契約解除時の清算条項とは?】
債務の免除に似たものとして、清算条項というものがあります。
関与先との契約が解除されるときがありますが、契約が終了する場合に、債権債務関係を清算することを目的として書面を取り交わします。
その中に、税理士報酬の支払いが、あとどのくらいあるのかといった条項や書類の返還などの条項を記載するとともに、「以上をもって、お互いの損害賠償その他の債権債務を清算します。」という清算条項を入れます。
弁護士が、和解書や示談書等を書く場合に必ず入れるのがこの清算条項です。
例えば、次のようなものです。
「甲乙間には、本合意書に規定する他、一切の債権債務がないことを確認する。」
清算条項を入れることで、「これでもう損害賠償もすべて終わった」という認識になります。
ただし、注意が必要なのは、これはまだ具体的な処理において、将来債務が発生することが全くわからない状態で提携するということになるので、必ず有効になるわけではないということです。
一応、こういう方法もあります、ということで紹介しておきたいと思います。
税務処理には複数の処理の方法があって、依頼者がリスクの高い処理を望む場合があるかと思います。
その場合、将来のリスクを説明した上で、「これでやりますが、その時に損害賠償しないで下さい」というような債務免除証書を取っておくということをお勧めしたいと思います。