執筆:弁護士・税理士 谷原誠

相続税申告業務における物納の
助言指導義務違反が認定された
税理士損害賠償の裁判例を紹介します。

名古屋地裁平成28年2月26日判決

(TAINS Z999-0170)です。

(事案)

●養親Bが死亡し、納税者が株式その他の財産を相続した。

●納税者は、相続税を現金納付できなかったが、
税理士が物納について助言指導しなかったために、
株式を3回に分けて売却し、相続税を納税した。

●売却した株価は、リーマンショックにより、
相続開始時よりも下落していた。

●そこで納税者は、株式を物納していれば
避けられた納税額の損害を被ったとして、
税理士法人に対して損害賠償請求をした。

(判決)

●被告は、原告との間で締結した
準委任契約上の善管注意義務を負い、
委任者の説明内容や関係法令、制度を
適切に確認、調査の上、委任者において
適正な納税を行い、かつ、最も利益と
なるように申告手続及び納付手続を
行うべき注意義務、そのための
助言指導義務を負っていると解すべきである。

●しかし、上記注意義務の具体的な内容は、
契約のそれぞれの時点において異なる
というべきである。

●仮に相続税申告についての契約締結自体は
4月の時点であったとしても、上記のとおりの
作業の連続性や、相続税申告に関する
やりとりがなされていることから、
契約締結前の段階における信義則上の
注意義務が生じていたというべきであるから、
契約締結がないことをもって、
被告が責任を免れるものではないといえる。

●初回訪問時は、遺言執行者であるC信託銀行も
財産目録調製に着手した段階であり、
相続財産の内容も判明しておらず、
被告において原告固有の財産も把握していないの
であるから、物納の可能性については不明であった。

●通常この段階で受遺者が株式を
処分することは想定されていないというべき
であるし、原告が養父の相続において
物納の経験があることにも鑑みれば、
被告ないしEにおいて、原告がD株を
処分することは予見不可能であった
というべきであるから、この時点で物納に
ついて具体的に説明し、株式の処分を
控えるように伝える義務まであった
ということはできない。

●8月11日の時点においては、
財産目録の調製が完了して、遺言執行者
において遺言の執行段階に入っており、
相続税の概算が算出されたのであるから、
申告手続について委託を受けた税理士には、
納税の方法について委任者に確認し、
必要な助言指導を行う義務が発生している
というべきである。

●原告が物納についてある程度の知識を
有しており、株式の売却を行う前に、
税理士に対して物納の可能性について
再度確認をすることが困難であったような
事情もうかがわれないこと、
原告が投資により、より有利な資産を
得る目的で資産運用を行っていた事実に
照らせば、原告が積極的な投資意欲を
有していたものと認められ、第3回売却についても、
投資目的での売却という要素が
否定できないことに照らせば、原告の
過失割合は3割と認定するのが相当である。

⇒2408万7000円の損害賠償を命じた。

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本件は、相続税の納付に関する物納制度を
説明しなかったことが善管注意義務に
違反する、とされた事例です。

他の裁判例でも、延納制度について
説明しないことが助言指導義務違反と
されたものがあります。

したがって、相続税額がある程度の
金額の時は、延納・物納制度について
説明し、その説明を証拠化しておく
必要があります。

「税理士を守る会」の会員の先生は、
相続業務受任の際の説明・同意書に
しっかり説明が入っていますので、
ご利用いただければと思います。

また、契約締結前の準備段階においても、
善管注意義務が認定されていますので、
注意が必要です。

すでに相談を受けているので、相談を受け、
これから相続税業務に入っていく
税理士としては、その段階で必要となる
説明助言はしなければならない、ということです。

今回は以上です。

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