東京地裁平成26年4月9日判決(TAINS Z999-0150)です。

事案の概要

X税理士法人の社員税理士であったYは、税理士法人の社員を辞任してX税理士法人から脱退した。

脱退前から、担当している主な顧客に対し、YがX税理士法人から脱退して独立開業する予定であることやその理由等を説明した。

これを受けて、顧客の中には、X税理士法人との顧問契約等を解約する段取りなどの助言を求める者がおり、Yもこれに応じていた。

ところ、YがX税理士法人を脱退する前に、X税理士法人に顧問契約等の解約通知書を送る者も現れた。

その結果、X税理士法人の顧客の多数がX税理士法人との間の顧問契約等を解約し、そのうちの相当数がYがX税理士法人脱退後に設立したY事務所との間で顧問契約等を締結した。

そこで、X税理士法人は、Yに対し、税理士法人の業務を執行する社員の善管注意義務及び忠実義務並びに競業避止義務の趣旨に違反するものであり、不当な方法でX税理士法人の顧客を奪取したものであると主張して、任務懈怠責任又は不法行為に基づき損害賠償を求めた。

裁判所の判断

一般論

一般に、税理士法人の社員が脱退後に行った税理士法人との競業行為は、自由競争に属し自由であるから、当該競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元の税理士法人の顧客を奪取したとみられるような場合に
限って、元の税理士法人に対する不法行為に当たる(元従業員の競業行為に関する最高裁平成22年3月25日第一小法廷判決・民集64巻2号562頁参照)。

違法となる場合

次に、X税理士法人の社員である間にYが将来の競業行為のために行う準備については、脱退するYの営業の自由と、税理士法人であるX税理士法人の利益との調和の観点から、競業行為の準備をすることは許容されるものの、X税理士法人の顧客に対し、X税理士法人との間の顧問契約等を解約して、Yが開設する事務所と顧問契約等を締結するように、違法不当な方法で働きかけることは許されないと解される。

本件での当てはめ

Yは、X税理士法人の顧客に対する退任の挨拶の際などに、YがX税理士法人から脱退して独立開業する予定であること及びその理由等を説明したり、X税理士法人との顧問契約等を解約する段取りなどの助言を求める顧客に対しYらこれに応じたりする程度のことはしているものの、Yら、X税理士法人の社員ないし従業員であったことに基づく顧客との人的関係等を利用することを超えて、X税理士法人の営業秘密に係る情報を用いたり、X税理士法人の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で脱退後の営業に向けた準備活動をしたことは認めるに足りない。

解説

裁判所は、社員税理士である間は、税理士法人との間の顧問契約等を解約して、自分が開設する事務所と顧問契約等を締結するように、違法不当な方法で働きかけることは許されない、としました。

しかし、脱退後においては、「自由競争に属し自由であるから、当該競業行為が、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で元の税理士法人の顧客を奪取したとみられるような場合に限り」、不法行為が成立する、としました。

税理士事務所で税理士が辞める際に顧客を奪取してトラブルになるケースが少なくありません。

税理士業界では、このような場合に当然損害賠償が認められると考えられている方が多いと思いますが、実は、そうではありません。

損害賠償が認められるのは限定的な場合であることを認識し、税理士事務所経営者は、誓約書を徴求したり、事実上顧客を奪取されないような仕組みを整えることを検討してみてください。

  • 許される社労士業務
  • 贈与税を必要経費に算入?
  • 顧問先の役員個人からの税務相談
  • 相続人と連絡が取れない時の対策とは?
  • 税務書類は作成するが、税理士として署名押印をしたくないケース
  • 代表者が不在の場合の申告
おすすめの記事
やむを得ない事情とは?
税理士損害賠償判例研究
大阪地裁平成24年7月4日判決判決です。 事案 納税者は、所得税法(平成23年改正前)70条1項に基づき翌年以降に繰り越される純損失の額を記...
税賠対策書式3点セット
税賠対策書式
税理士を守る税務顧問契約書 ※実務では、ご依頼を受けて個別に作成する場合には3万円で提供しています。 日本税理士連合会でも業務契約書を配布し...
実務講座(ダイジェスト)
税理士業務に役立つ動画
税理士が間違えやすい自社株評価 税務調査を予防するための知識 書面添付の実践手法 不動産を活用した相続対策の真実...