錯誤に関しては、
「法律行為の錯誤」
「申告書の記載内容の錯誤」
の2種類があります。
今回は、このうち、「法律行為の錯誤」を取り上げます。
解説
法律行為の錯誤に関しては、民法第95条は、
「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。」
と規定しています。
たとえば、
「自分には課税負担はない」
と思い込んでいたり、
「この契約をすれば節税になる」
と思い込んでいたのに、実は、違った、というような場合に、元の法律行為に関して錯誤無効を主張できるか、という問題です。
過去の裁判例では、最高裁平成元年9月14日判決は、
「財産分与に伴う課税関係の点を重視していたのみならず、他の特段の事情がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していた」
場合には錯誤を認めうる可能性があることを認めています。
そして、その差し戻し審で、東京高裁平成3年3月14日は、財産分与契約の錯誤無効を認めています。
しかし、錯誤無効を主張する時期については注意が必要です。
不動産の交換契約の錯誤無効を主張した事案で、大阪高裁昭和45年1月26日判決(判例タイムズ246号228頁)は、無効な法律行為でもいったん申告をし、その後、経済的効果が消滅し権利変動の外形が除去されたときに改めて減額更正等の手続をすべき、と判示し、申告期限経過後の錯誤無効の主張を認めるかのような判示をしています。
しかし、下級審判例ですが、錯誤無効を主張できる時期を限定しているものがあります。
高松高裁平成18年2月23日判決(TAINS Z256-10528)は、
「納税義務者は、納税義務の発生の原因となる私法上の法律行為を行った場合、当該法律行為の際に予定していなかった納税義務が生じたり、当該法律行為の際に予定していたものよりも重い納税義務が生じることが判明した結果、この課税負担の錯誤が当該法律行為の要素の錯誤に当たるとして、当該法律行為が無効であることを法定申告期間を経過した時点で主張することはできないと解するのが相当である」
として、法定申告期限経過後の錯誤主張を認めていません。
注意が必要ですね。
「申告書の記載内容の錯誤」は、また、別の機会に。