大阪地裁平成24年7月4日判決判決です。
事案
納税者は、所得税法(平成23年改正前)70条1項に基づき翌年以降に繰り越される純損失の額を記載した平成20年分所得税の確定申告及び修正申告を行い、さらに同額を所得から控除した平成21年分の所得税の確定申告を行いました。
すると、税務署長から、平成20年分の確定申告書は法定期限内に提出されたものでないとして、翌年以降に繰り越される純損失の額は0円であるとする更正処分を受けました。
そこで、納税者は、平成20年分所得税の申告は、申告期限後に提出せざるを得なかった「やむを得ない事情」があったから、本件処分は違法であると主張して、その取消しを求めました。
(当時の所得税法70条)4項
法70条1項又は2項の規定は、これらの規定に規定する居住者が純損失の金額が生じた年分の所得税につき同条1項の青色申告書又は2項各号に掲げる損失の金額に関する事項を記載した確定申告書をその提出期限までに提出した場合(税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合には、これらの申告書をその提出期限後に提出した場合を含む。)であって、それぞれその後において連続して確定申告書を提出している場合に限り、適用する。
判決
純損失の繰越制度の趣旨
所得税法は、いわゆる期間計算主義を建前とし、一暦年間の収支決算の結果たる所得に対して課税することとしており、ある年分において純損失が生じたとしても、その純損失は、本来他年分の所得計算に影響を及ぼさないのが原則であるところ、純損失の繰越制度は、徴税の合理化と税負担の公平化を図る趣旨から、青色申告書を提出する者に限り、当期の純損失を次期以降の所得の計算において繰越控除することを法が特別に認めた例外的・恩恵的措置であると解される。
「やむを得ない事情」とは?
所得税法70条4項は、例外的・恩恵的措置と解される純損失の繰越制度の適用要件である法定期限内の提出という要件について、税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合には、更に例外的な緩和を認めるものであるから、上記「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他本人の責めに帰することのできない客観的事情をいうものと解するのが相当である。
あてはめ
納税者は、確定申告書を法定期限内に提出できなかった事情について、納税者の税務代理人である乙税理士がその業務に使用し、過去の税務関係資料が保存されていたパソコンが故障したためであると主張する。
しかしながら、確定申告書は必ずしもパソコンで作成しなければならないものではない
乙税理士のパソコンが故障したのは平成20年11月であったというのであって、平成21年3月16日の法定期限までには3か月以上の期間があったのであるから、・・・時間的余裕は十分にあったと考えられる。
解説
以上によれば、納税者の主張する事情は、天災、交通途絶その他本人の責めに帰することのできない客観的事情であるということはできず、所得是法70条4項の「やむを得ない事情」には該当しないというべきである。
税法には、納税猶予や還付その他複数の条項で「やむを得ない事情」を要件としているものがあります。
この場合の「やむを得ない事情」は、本判決がいうように、厳しく判断されています。
法の不知や税理士の失念などは、「やむを得ない事情」とは認められないので、申告期限や添付漏れには気をつけなければなりませんね。