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債権譲渡に関する見直し【民法改正のポイント】

現行民法のルール

「債権譲渡」とは、債権者が債務者に対して持っている権利(債権)を他人に譲り渡すことをいいます。

債権の内容はいろいろありますが、債権譲渡が行われるのは主にお金を支払ってもらう権利である金銭債権です。

そのため、ここでは金銭債権の譲渡を前提として説明していきます。

債権譲渡により債権者が交代することになりますが、債権譲渡は債務者の関与なく行われるため、債権者が交代したことを債務者に知らせる必要があります。

債務者が知らないと、債権譲渡がされて無権利となった元の債権者に支払がなされてしまう可能性があります。

そのため、元の債権者である譲渡人から債務者に対して債権譲渡をしたことを通知をするか、債務者が債権譲渡について承諾をしなければなりません。

通知と承諾のどちらも行われない場合は、新しい債権者である譲受人は債務者に対して債権を譲り受けたことを主張できず、債務者は元の債権者に対して支払いをすれば足ります。

変更点

(1)譲渡制限特約がある場合の債権譲渡の効力を見直し

債権譲渡は、資金調達を目的として利用されることが多いです。

債権の弁済期にならなければ債務者は支払いをする義務がないため、債権者は債務者に対して支払いを請求することができません。

債権譲渡(債権の売却や担保提供)をすることによって、債権者は弁済期まで待たずにお金を手に入れることができます。

しかし、債権には他人への譲渡を禁止するという内容の譲渡制限特約がついていることも多く、その場合は原則として債権譲渡は無効となります。

特約の存在を譲受人が知らず、知ることもできなかった場合または債務者が債権譲渡を承諾した場合には、例外として債権譲渡は有効となりますが、現実的ではありません。

このことが資金調達を妨げる原因となっていました。

債権譲渡が無効となる可能性を考慮すると、債権の価値が高く評価されないからです。

改正民法は、譲渡制限特約がある場合でも、債権譲渡を有効としました。

ただし、譲渡制限特約は支払いをする相手を固定するという意味があり、債務者にとって重要なものです。

債権譲渡が自由にできると、債務者は誰に対して支払いをすればよいのかがわからなくなり、本来の債権者ではない人に支払ってしまうおそれがあります。

そこで、債務者を保護するための譲渡制限特約の意味を失わせないために、特約の存在を知っていたか知ることができた譲受人に対しては、債務者は支払いを拒否することができることとしました。

支払いを拒否することはできるものの、債権譲渡は有効であるため、債務者は(すでに債権者ではなくなっている)譲渡人と譲受人のどちらに対しても支払いをする必要がないことになります。

これでは問題があるため、改正民法は、債務者が譲受人に対する支払いを拒否できなくなる場合についての規定を置きました。

債務者が譲渡人にも譲受人にも支払いをしない場合には、譲受人が債務者に対して相当の期間内に譲渡人に支払いをすることを催告することができ、期間内に支払いをしなければ債務者は譲受人に対して支払いを拒否できなくなるとしたのです。

預貯金債権はこの規定の対象から除かれています。

預貯金債権とは、預貯金口座から払戻しができる権利のことで、債務者は銀行などの金融機関です。

預貯金債権には譲渡制限特約がついているのが一般的であり、譲受人が特約の存在を知ることができたといえるため、債権譲渡は必ず無効となり、金融機関は口座名義人である譲渡人に対して払戻しをすればよいとされてきました。

今回の改正によって、譲渡制限特約がある場合でも債権譲渡は有効となりましたが、これを預貯金債権にも適用すると迅速な払戻しができなくなり、金融機関の事務に支障が生じる可能性が高いです。

そのため、預貯金債権については、譲渡制限特約がある場合に債権譲渡が行われても、これまでどおり無効ということになっています。

(2)将来発生する債権の譲渡が可能であることを明文化

将来発生する債権(将来債権)の譲渡も、資金調達目的でよく利用されています。

将来債権の譲渡は裁判所の判例により認められていましたが、将来債権の譲渡ができることは現行民法に規定されていませんでした。

改正民法は、将来債権の譲渡ができることを明文化しました。

債権譲渡の意思表示をしたときに債権が発生している必要はない、というような規定になっていますが、将来債権の譲渡が可能であるということを意味しています。

また、債権譲渡の対象となった将来債権が発生したときは、当然に譲受人がその債権を取得することとされました。

いったん譲渡人が債権を取得してから譲受人に移転するのではなく、直接譲受人が取得できるということです。

将来債権を取得したことを譲受人が債務者に主張するためには、将来債権以外の債権、つまり債権譲渡をするときにすでに発生している債権と同じように、譲渡人による通知または債務者の承諾が必要です。

(3)債務者が譲受人に相殺を対抗できる債権を規定

債務者は債権者にお金を支払う立場にありますが、債務者が債権者に対する債権を持っていれば、債権と債務を打ち消しあうことによって支払わなければならない金額が減ります。

これを相殺といいます。

現行民法では、債務者が債権者に対する債権を持っている場合に債権譲渡がされたときは、債権譲渡の通知を受けるまでに債権者である譲渡人に対して生じた事由を譲受人に対抗できるとしていますが、この意味があいまいです。

通知を受けるまでに債権を取得すれば相殺を譲受人に対抗できるのか、それとも相殺ができる状態になっていなければならないのかなどが明らかではありませんでした。

改正民法は、債務者が譲受人に相殺を対抗できる債権を具体的に規定しました。

債務者に対する対抗要件(譲渡人による債権譲渡の通知または債務者による債権譲渡の承諾)を備える前に取得した債権、または前の原因にもとづいて取得した債権であれば、債務者は譲受人に相殺を対抗できます。

相殺ができる状態になっているかどうかは関係がありません。

また、譲受人が取得した債権つまり債務者が負っている債務が発生した契約にもとづいて生じた債権についても、債務者は譲受人に相殺を対抗できます。

これらの場合には、債務者の相殺への期待を保護する必要があると考えたのです。

ただし、対抗要件を備えた後に債務者が他人の債権を譲り受けた場合は、もともと相殺することを期待していたとはいえません。

その場合は、債権譲渡の対抗要件を備える前の原因にもとづいて取得した債権でも、譲受人が取得した債権が発生した契約にもとづいて生じた債権でも、譲受人に相殺を対抗することはできません。

契約書への影響

(1)譲渡の対象となる債権が発生する原因となった契約に譲渡制限特約がついていても、預貯金債権でないかぎり債権譲渡は有効です。

それでは譲渡制限特約をつける意味がないと思うかもしれませんが、譲受人が譲渡制限特約を知っていたか知ることができた場合には債務者は支払いを拒否できるという効果があります。

なお、改正前の譲渡制限特約の内容を変更する必要はありません。

「債権者は、本契約から生じる債権を第三者に譲渡してはならない。ただし、債務者の事前の承諾があった場合はこのかぎりでない。」などとします。

(2)将来債権の譲渡ができることが明文化されましたが、これまでも判例によって認められており、一般的に将来債権の譲渡が行われています。

契約書には将来債権の発生原因などを記載することによって、将来債権を特定する必要があります。

しかし、改正前と異なる記載をする必要はありません。

(3)債務者が譲受人に相殺を対抗できる債権について契約書に記載することはないため、改正により契約書に影響を与えることはありません。

いつから適用になるか

改正民法の施行日は、2020年4月1日です。

施行日よりも前に結んだ債権譲渡契約には現行民法が適用され、施行日以後に結んだ債権譲渡契約には改正民法が適用されます。

譲渡の対象となる債権が発生する原因となった契約を結んだ日ではなく、債権譲渡契約を結んだ日が基準となることに注意しましょう。

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