契約書のひな形、内容証明郵便書式、労務書式、
会社法議事録・通知書のテンプレートが無料

連帯債務に関する見直し【民法改正のポイント】

現行民法のルール

「連帯債務」とは、複数の債務者(連帯債務者)が同じ内容の債務を負担し、ひとりひとりが全責任を負うことをいいます。

全責任を負うというのは、お金を支払う債務の場合、債権者との関係ではどの連帯債務者にも債務の全額を支払う義務があるということです。

連帯債務者同士の関係では、最終的にそれぞれが支払う負担部分を定めます。

債権者が連帯債務者のひとりの債務の弁済期を遅らせても、他の連帯債務者の弁済期は変わりません。

このように、連帯債務者のひとりに生じた事情は他の連帯債務者に影響を与えないことが原則であり、これを相対効といいます。

連帯債務者のひとりに生じた事情が他の連帯債務者にも影響を与えることを絶対効といいますが、絶対効は現行民法に例外として規定されています。

たとえば、履行の請求は絶対効であるため、連帯債務者のひとりに対して債権者が履行を請求すると他の連帯債務者にも請求をしたことになります。

これは債権者にとって有利な規定です。

また、債務免除も絶対効であるため、連帯債務者のひとりが債務免除を受けた場合はその債務者が債務を免れるのはもちろん、他の連帯債務者も免除を受けた連帯債務者の負担部分について債務を免れます。

これは連帯債務者にとって有利な規定です。

変更点

(1)履行の請求、債務免除及び時効の完成を絶対効から相対効に変更

現行民法は、債権者が連帯債務者のひとりに対して履行を請求した場合には、他の連帯債務者にもその効力が生じると定めています。

履行の請求の効力が生じるというのは、具体的には債権の消滅時効が中断して履行遅滞に陥るということを意味します。

債権は一定期間が経過することで時効によって消滅しますが、時効が中断するとふりだしに戻ります。

また、履行遅滞に陥ると遅延損害金が発生します。

履行の請求があったことを他の連帯債務者が知っているかどうかは関係がないため、知らなくてもこのような効力が生じることになります。

連帯債務者にとって、履行の請求が絶対効であることは大きな負担になっていました。

連帯債務者のひとりに対して債務免除をすると他の連帯債務者もそのひとりの負担部分については債務を免れますが、これは債権者の意思に反する可能性があります。

債権者は、他の連帯債務者に全額の支払いをしてもらおうと考えた上で、ひとりについて債務免除をしたかもしれないからです。

改正民法では、履行の請求を絶対効とする規定を削除しました。

もともと別の規定で、連帯債務については相対効が原則であることを定めているため、履行の請求は絶対効から相対効に変更されたということです。

改正後は、連帯債務者が知らない間に債権の消滅時効が中断していたり履行遅滞に陥っていたりすることがなくなります。

また、債務免除を絶対効とする規定も削除されました。

債権者は連帯債務者のひとりに対して債務免除をしても、他の連帯債務者に全額を請求できることになります。

他の連帯債務者が債権者に支払いをした場合には、債務免除を受けた連帯債務者に対して負担部分の支払いを請求できるという規定が置かれました。

債権者による連帯債務者のひとりに対する債務免除が、その連帯債務者と他の連帯債務者との求償関係にまで影響を及ぼすとすることは妥当ではないと考えられたからです。

他の連帯債務者から請求があった場合、債権者との関係では債務がなくなった連帯債務者も、結果的に負担部分の支払いをしなければなりません。

この場合、債務免除を受けた連帯債務者から債権者に対して不当利得返還請求をすることはできないとされています。

不当利得とは、法律上の原因なく利益を受け、それによって他人に損失を及ぼすことをいいますが、債権者が債権にもとづいて連帯債務者から支払いを受けることは法律上の原因なく利益を受けることにはならないからです。

連帯債務者のひとりについての時効の完成は、債務免除と同様に改正されています。

履行の請求が絶対効から相対効に変更されたことは債権者にとって不利ですが、債務免除と時効の完成が絶対効から相対効に変更されたことは債権者にとって有利な改正です。

(2)相対効を絶対効とする合意に関する規定を新設

現行民法では相対効を原則としていますが、民法上は相対効のものについても債権者と連帯債務者との間で特約をして絶対効とすることは可能であると考えられています。

つまり、相対効を原則とする規定は当事者間の特約によっても排除できない強行規定ではなく、民法の規定よりも特約が優先される任意規定であるということです。

たとえば、債権者が連帯債務者のひとりに対して債務の履行を請求した場合、民法上は相対効となるため債権者と他の連帯債務者との間では履行の請求の効力は生じません。

しかし、債権者と他の連帯債務者が特約をして、債務者のひとりに対して債務の履行を請求した場合には、他の連帯債務者にも効力が及ぶと定めることもでき、その場合には履行の請求が絶対効となるのです。

改正民法では、このことを明文化しました。

例外的に絶対効と定められたもの以外は相対効ですが、債権者と他の連帯債務者が別段の意思を表示したときはその意思に従うという内容の規定になっています。

(3)相殺の援用権を拒絶権に変更

連帯債務者のひとりが債権者に対して債権をもっていることがあります。

債務者でありながら債権者でもあるという関係です。

その場合には、実際にお金の受け渡しをすることなく2つの債権を同じ額だけ消滅させる「相殺」という方法をとることができます。

相殺するためには、2つの債権が同種の目的をもつことや弁済期が来ていることなどの一定の要件をみたす必要があります。

現行民法は、相殺できる状態になっているにもかかわらず債権者でもある連帯債務者が相殺しない場合には、他の連帯債務者が代わりに相殺することができると定めています。

代わりに相殺する場合は相殺できる範囲に制限があり、債権をもっている連帯債務者の負担部分のみとされています。

改正民法では、他の連帯債務者が負担部分のみ代わりに相殺できるという規定を変更し、負担部分の限度で債権者に対して履行を拒むことができるという規定にしました。

改正前は相殺することまでできたのに対して改正後は履行を拒むことしかできないため、連帯債務者の権利が狭められました。

なお、債権をもっている連帯債務者自身が相殺する場合については、改正前と改正後で変更はありません。

負担部分にかぎらず債権全体について相殺することができ、他の連帯債務者にも債務の消滅の効力が及びます。

契約書への影響

(1)(2)民法上は相対効であるものについて、当事者間の特約により絶対効とすることができます。

債権者にとって有利な契約内容にしたい場合は、履行の請求を絶対効とする定めをしておくことが考えられます。

改正前は契約に定めがなくても履行の請求は絶対効でしたが、改正後は異なるため注意が必要です。

変更例
新設(絶対効)
「債権者が連帯債務者のひとりに対して履行の請求をした場合、他の連帯債務者にもその効力が生じるものとする。」

(3)相殺に関する規定を契約書に記載することはないため、契約書への影響はありません。

いつから適用になるか

改正民法は2020年4月1日に施行されます。

連帯債務が発生した日が施行日よりも前である場合は現行民法が適用され、施行日以後に連帯債務が発生した場合は改正民法が適用されます。

ただし、施行日以後に連帯債務が発生した場合であっても、その発生原因となる行為が施行日前に行われた場合は改正民法ではなく現行民法が適用されます。

経営に役立つ無料セミナー・無料資料請求
PREVNEXT