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弁済に関する見直し(第三者弁済)【民法改正のポイント】

現行民法のルール

「弁済」とは、債務者が債務を履行することであり、債務が消滅する原因のひとつです。

弁済の内容は債務の種類によって異なります。

代表的な債務であるお金を支払う債務の場合、お金を支払うことが弁済の内容です。

弁済は、債務を負っている債務者自身が行うのが通常です。

しかし、債務者以外の人(第三者)が弁済することができないわけではありません。

現行民法でも、第三者が弁済することを認める規定があります。

第三者による弁済ということで、第三者弁済と呼ばれています。

債務の性質から判断して第三者弁済ができない場合には、第三者弁済は認められません。

たとえば、債務者の個性に着目した債務の場合です。

その債務者が弁済するからこそ意味があるといえるからです。

お金を支払う債務のように誰が弁済しても問題がない債務であれば、第三者弁済をすることができます。

また、当事者(債権者と債務者)が合意によって第三者弁済を禁止したり制限したりした場合には、第三者弁済は認められません。

債務の性質上第三者弁済をすることができ、当事者による禁止や制限がされていない場合であっても、第三者弁済ができない場合があります。

それは、利害関係のない第三者が債務者の意思に反して弁済をする場合です。

債務者の意思に反する場合とは、債務者が積極的に第三者弁済を拒否する意思を表示した場合にかぎりません。

さまざまな事情から判断して、第三者弁済がされた時点で債務者の意思に反しているといえる場合も含みます。

第三者弁済は債務が消滅するという効果があるため、債務者にとって不利益にはならないようにも思えますが、自分が負担した債務は自分で弁済したいという意思をもっている債務者もいるかもしれません。

そのような意思がなかったとしても、第三者弁済がされた後に債務者は第三者から支払いを請求(求償)されることになるため、第三者が誰かということは債務者にとって重要です。

そのため、債務者の意思によっては第三者弁済ができない場合もあるとしているのです。

しかし、債務者の意思に反する場合は誰でも第三者弁済ができないとすると別の問題が生じるため、利害関係のある第三者は債務者の意思に反していても第三者弁済をすることが認められています。

変更点

(1)「利害関係を有しない第三者」を「正当な利益を有する者でない第三者」に変更

現行民法では、利害関係のない第三者が債務者の意思に反して第三者弁済をすることはできないと定められています。

ここでいう利害関係とは、法律上の利害関係を意味しています。

法律上の利害関係がある第三者の例としては、物上保証人が挙げられます。

物上保証人とは、自分が所有する建物に他人のために抵当権を設定している人のことをいい、保証人とは異なります。

保証人の場合は自分の保証債務を履行すればよく、主たる債務者の債務を第三者弁済することはないため、法律上の利害関係があるかを考える必要はありません。

物上保証人が債務者に代わって弁済する場合には、債務者の意思に反していたとしても有効な第三者弁済となります。

第三者弁済をすることによって債務が消滅すると、物上保証人所有の建物に設定されている抵当権も消滅します。

抵当権が消滅すると、債務の支払いができなくなって建物が競売にかけられるという心配がなくなります。

このことから、物上保証人は法律上の利害関係があるといえるのです。

家族というだけでは利害関係があることにはなりません。

親が子の代わりに弁済した場合は、利害関係のない第三者による弁済となるため、債務者(子)の意思に反する場合は無効です。

改正民法は、現行民法の「利害関係を有しない第三者」を「正当な利益を有する者でない第三者」という表現に改めました。

これは単なる表現の変更であり、実質的な意味が変更されたわけではありません。

したがって、物上保証人は正当な利益がある第三者にあたるが家族はあたらないという結論は、改正民法の下でも変わりません。

また、債務の性質上第三者弁済ができない場合や当事者が第三者弁済を禁止または制限した場合には第三者による弁済が認められないことも、現行民法と変わりません。

ただし、現行民法では「反対の意思」と表現していたところ、改正民法では「第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思」という具体的な表現に変更されています。

(2)債権者が債務者の意思に反することを知らなかった場合の規定を新設

現行民法では、利害関係のない第三者が債務者の意思に反して弁済した場合、第三者弁済は無効となります。

債権者が債務者の意思に反していることを知っているかどうかは関係がありません。

しかし、債権者が債務者の意思に反していることを知らなかった場合には、有効な弁済を受けて債権が消滅したと考えるはずです。

そもそも債権者が債務者の意思を知り得ない場合もあります。

それにもかかわらず、債務者の意思に反しているために弁済は無効であるとして第三者から返還を求められると債権者に不利益が生じるため、問題であると指摘されていました。

改正民法は、正当な利益がない第三者が債務者の意思に反して弁済することはできないとしながらも、債権者が債務者の意思に反することを知らなかった場合には第三者弁済は有効であるとしています。

これは債権者を保護するための規定です。

(3)第三者弁済が債権者の意思に反する場合の規定を新設

現行民法では、利害関係のない第三者による弁済が債権者の意思に反する場合については規定されていません。

規定がない以上、債権者の意思に反していても第三者弁済ができることになりますが、利害関係のない第三者が弁済しようとしている場合に債権者が弁済を受けることを拒否できないことは問題であると考えられていました。

改正民法では、正当な利益がない第三者は債権者の意思に反する場合には弁済することができないという規定を新設しました。

債権者の側から考えると、正当な利益がない第三者が弁済しようとするときに弁済を受けるか拒否するかを選択できるということです。

この規定を(1)と合わせて考えると、正当な利益がない第三者は債権者と債務者のどちらかの意思に反していれば弁済できないということがわかります。

例外として、債務者が第三者に弁済することを頼んだ場合であり、債権者がそのことを知っていた場合には、債権者の意思に反していても第三者弁済をすることができると定めています。

言い換えると、債務者が第三者に弁済することを頼んだ場合でも、債権者がこのことを知らず、かつ債権者の意思に反している場合には第三者弁済はできないということです。

債務者がその第三者による弁済を希望していても債権者の意思によっては第三者弁済が認められない場合もあるということで、改正前に比べて債権者の保護が強化されています。

契約書への影響

(1)(2)(3)契約書に第三者弁済を想定した規定を入れることはないため、契約書への影響はありません。

いつから適用になるか

改正民法は、2020年4月1日に施行されます。

第三者弁済の対象となる債務が施行日よりも前に生じた場合には現行民法が適用され、施行日以後に生じた場合には改正民法が適用されます。

第三者弁済をした日と施行日の先後ではなく、債務が生じた日と施行日を比較して判断します。

ただし、施行日以後に債務が生じた場合であっても、債務が生じる原因となる法律行為が施行日前に行われていたときは、現行民法が適用されます。

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