「顧問先の役員個人に対する税務上の 説明助言義務違反が問われた裁判例」
をご紹介します。
東京地裁平成12年6月30日判決(TAINS Z999-0066)です。
(事案)
依頼者Xは、進学教室及び学習塾の経営を主たる業務とする有限会社A社の取締役であり、税理士Yと顧問契約を締結していた。
取締役であるXは、過去2年間、Yに対し、個人としての確定申告書の作成等の業務を依頼していたほか、各種の税務相談を依頼していた。
ただし、取締役XからYに対し、A社との顧問契約とは別途の顧問報酬は支払われていなかった。
Xは、自宅を売却して、3000万円の限度で譲渡所得の特別控除の制度(租税特別措置法35条)の適用を受けようと考えた。
Xは、平成7年4月13日ころ、Yに電話をし、Xが本件建物をA社に売却した場合にも、居住用資産についての譲渡所得の特別控除の適用を受けられるかどうかを尋ねたところ、Yから適用を受けられる旨の回答を受けた。
Xは、Yからの本件教示を信用して、平成7年4月26日、A社に対し、本件建物を売却した。
ところが、本件売買契約は同族会社に対する売却にあたるため、租税特別措置法施行令23条による同法施行令20条の3第1項の準用により、同法35条の特別控除の適用が排除され、Xは、本件売買契約について、居住用資産の譲渡所得の特別控除の適用を受けられなかった。
そこで、Xは、Yに対し、説明助言義務違反を理由に損害賠償訴訟を提起した。
税理士は、顧問先の役員個人からは報酬ももらっていないし、顧問契約も存在しないから、説明助言義務がないとして争った。
(判決)
顧問契約が存在しないならば、Xから相談を受けた際に、X個人の相談は受けられない旨相談の受理を拒否すれば足りる
相談に応じたこと自体本件顧問契約の存在を裏づける事情といえる。
Yが、Xから、A社との顧問契約とは別途の顧問報酬を受け取っていなかったことは前記のとおりであるが、Xからの本件相談内容は、租税特別措置法35条1項本文に規定されている基本的事項に関するものであって、税理士としては初歩的知識というべく、その教示を誤ったという行為は、たとえ無償の顧問契約であったとしても、契約上の義務に反する重大な過失といわなければならない。
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以上です。
この判決から学べる点は、
●無償であっても委任契約は成立する。
●税務相談に応じることを反復すると、 顧問契約の存在の推定に結びつく可能性がある。
ということです。
判決は、「顧問契約がないなら相談に応じなければよい」と言いますが、それは事実上難しいところです。
しかし、事実上税務相談に応じていると、委任契約が成立したと認定されてしまうのであれば、顧問報酬を受け取っていなくても、報酬0円で都度「契約書」を締結することが望ましいと言えるでしょう。
契約書を締結しておけば、「税理士を守る会」で配布している契約書にあるような、
・業務範囲の限定
・責任分担規定
・損害賠償の上限規定
などが適用され、税理士を守ってくれる可能性があります。
ご注意ください。
今回は以上です。