【この記事の著者】
公認会計士・税理士 佐藤信祐先生
掲載日 2023/4/19
2021年度税制改正により、租税特別措置法に株式交付税制が導入されました。
さらに、2023年度税制改正では、株式交付税制の対象から、株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除きます。)に該当するものが除外されることになりました。
これは、M&Aの手法として導入された株式交付制度が、資産管理会社に事業会社の株式を集約する手法として利用されているという批判があったからだと考えられます(「株式交付で『私的節税(日本経済新聞、2022年9月5日)』」)。
このように、株式交付税制は、所得税法及び法人税法ではなく、租税特別措置法に規定されています。
その理由は、組織再編税制の枠組みに入れることができなかったからだと考えられます。
なぜなら、株式交付に似た制度として株式交換がありますが、株式交換税制は、①子法人の株主がその個別意思とは関係なく株主としての地位を失い、かつ、②株式取得を通じて子法人の事業、資産を実質的に取得することから、合併と同様の効果が得られる取引であるという理由で、組織再編税制の枠組みに入れられました(「平成 18 年版改正税法のすべて」298-299 頁)。
これに対し、株式交付が上記①②のいずれにも該当しないことから、組織再編税制の枠組みに入れることができなかったと考えられます。
しかしながら、2023年度税制改正後も、非適格株式交換に伴う時価評価課税(法法62の9)を免れるための手法として、株式交付が検討されることがあります。
さらに、株式交付は株式交換に比べて、必ずしも不自然、不合理な手法であると認定することが困難であるため、どのような場合に包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用されるのかが明らかではありません。
さらに、立法論の立場としても、株式交換及びスクイーズアウトが資産の移転を伴わない有価証券取引であることから、組織再編税制の対象にする必要があったのかという疑問もあります(朝長英樹『現行税制の現状と課題(組織再編成税制編)』380頁(新日本法規、平成29年))。
本来であれば、このような税制の不整備については、将来的な税制改正により解決されるべきだと思いますが、税制改正には時間がかかるという問題があります。
そのため、現時点における実務上の対応としては、現行法上、株式交付税制そのものに問題があり、かつ、租税回避の手段として濫用される可能性が高いため、包括的租税回避防止規定が適用されないように、株式交付を利用する場合には、その事業目的を明確にしておく必要があると考えられます。